刀*語

□嫁がされた刺客
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「分からず。何故私はお前に担がれているのだ」
「それにしても軽いな。きちんと食事を摂っておるのか? 昔に比べ随分痩せたのではないか」
「及ばず。そんなものお前に心配などされる義理はない。それよりも此処は何処だ」


次に目が覚めた時――否、意識が戻った時と言った方がこの場合正しいのかもしれない。
とにかく気が付いた時には何故か見慣れた朱い衣服が眼前にあった。
その一風変わった後ろ姿に右衛門左衛門が如実に察しない訳がない。
懸想を抱く男に担がれている事などに。

否定姫の屋敷、その天井裏で少しうたた寝をしていたまでは覚えている。
あの主が愚痴を零しながら書状を書いているのが遠い意識の内に聞こえていたからである。
しかし、何時の間にこの様な所に、しかも表向きでは敵対関係である筈のこの男、真庭鳳凰に、米俵を担ぐかの如く肩に乗せられているのだろうか。
右衛門左衛門よりも小柄である鳳凰が軽々と自身を運んでいるという事実に彼は内心悔しさにも似た苛立ちを覚えていた。


「私を姫様の屋敷から連れ出したのか、鳳凰」
「やはりおぬしは鋭いな。最初から誤魔化せれるものではないと思ってはいたが、こうも悟られるのが早いとは」
「要らず。そんな事はどうでもいい。それよりも何故真庭の里なのだ、私は任に戻らねばならないのだが。いい加減肩から下ろさないか」
「それは困るな。我もおぬしに用があるからこそこうしておぬしを連れ去って来たのだ。せめて我の話を聞いてからでも遅くはなかろう」
「私に此処に来られては後々支障が出るとは思わなかったのか」
「思う訳がない。おぬしがあのお姫様の命令抜きで動く事にしてみては我等の里は屈強だ。どのみちおぬし一人に壊滅される事もなかろう。真庭忍軍12頭領も居るのだしな」


あっけらかんとした答えが返ってきた事により、右衛門左衛門は口を閉ざす他なかった。
鳳凰きっての話となると、深刻な話に違いないと踏んだ為である。
彼は嘘を付かない男であるし、余程でなければ不躾に人を攫ってくる様な大それた事もしない筈だ。
事は急を要するのだろうか、と心中で独り言ちながら右衛門左衛門は更に首を傾げた。

襲撃の面では何も心配はしていない、と暗に告げる鳳凰。
だが、もし右衛門左衛門が偵察を目的に置いていたらどうするのだろうか。
尾張幕府直轄内部監察所総監督補佐が里に踏み入りあらゆる里の情報を知り尾張に帰って行ったとなれば困るのは鳳凰を初めとする真庭の忍達だ。
思わず右衛門左衛門は振り放そうと鳳凰の肩に置いていた手を放した。
為すがままに鳳凰のいいように肩の上に収まり、そのまま暫く事の次第をあれこれと考えていた。






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