刀*語

□気紛れバケーション弐
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「―――…とまぁ、そういう訳だ」


場所は変わって何時ぞやの家屋の居間。
真庭忍軍12頭領の内11人がずらりと並んで座る部屋に、鳳凰と右衛門左衛門は上座に座らされていた。
先程の蝙蝠の露顕から12頭領全てに右衛門左衛門の来訪を知らされてしまった為である。
後々伝える予定であった鳳凰であるが、こうも早くなるとはまるっきり思惑の範囲外だ。


「今日から一週間程此処に住む事になった。名は…」
「私は左右田右衛門左衛門と言う。暫く厄介になるが、謹んでよろしく頼む」
「…だそうだ」


やはりと言うか、頭領11人の前に座る右衛門左衛門は恐縮し一人正座で頭を軽く下げる。
こう几帳面な挨拶を常識がある程度損なわれている者達に向けるというのも滑稽だ、と鳳凰は心中で呟いた。
しかし四の五のと言っても仕方がない為、統率者としての声音で頭領11人皆に言い聞かす様に口を切る。


「前にも話に出した我の細君だ。大切な嫁なのでな、あまりからかうのは止してくれ」
「な…」
「……特に蝙蝠、川獺、それに白鷺はな」
「おう」
「あいっさ了解」
「よたっか分」


前科のある三人に凄んで見せる鳳凰。
その隣で彼の発言に驚き呆れ、右衛門左衛門は言葉を失う。
人前で飄々と言ってのける男に、仮面の忍はこの上ない程の羞恥を感じた。


「では、よろしく頼む」
「ああ」
「分かった」
「うむ」
「よろしくお願いします」
「はい」
「分かったわ」
「分かりました」
「あ、あの、よ、よろしくお願いします…」
「でもまさかあの鳳凰ちゃんが結婚なんてねぇ! 時間が経つのは早いわねぇ〜」
「ええ、しかも何と美しい奥方なのでしょうか。ああ、いいですね、いいですね、いいですね…」
「待て待て。おぬし達、いっぺんに好き放題話すな」


返事だけでもあちらこちらから様々に聞こえてくる。
何せ11人も居るのだから仕方がないと言えばそれまでだが、右衛門左衛門は些か混乱していた。
顔馴染みや知り合いはきちんと見受けられるが、まだ面識のない者も居るのだ。
そんな右衛門左衛門の当惑を感じ取ったのだろう、鳳凰は一度話を遮って止めた。

これから屋根の下で暮らす者達として、きちんとした自己紹介がされる。
取り敢えず、といった風ではあるが、無いより有る方がいいとして鳳凰が口を開いた。



「では、我等から見て左端から…」

「わしは真庭海亀だ。おぬしとは顔馴染みだの、まぁよろしく頼む」

「真庭蟷螂だ。何か困った事があれば気軽に声を掛けて欲しい」

「真庭蜜蜂です。これからもよろしくお願いします」

「俺は真庭蝶々。あ、そういえば結婚おめでとさん」

「真庭鴛鴦です。不慣れな場所かもしれませんが徐々に慣れていってくれればよろしいかと」

「真庭蝙蝠だ。ま、よろしく頼むぜ、嫁さん! きゃはきゃは!」

「真庭川獺だよん。この間はすまねぇ、これからはなるべく気を付けるよ」

「だ鷺白庭真は俺。よれくて見に目大どけだもかるけ掛惑迷たま」

「私は真庭喰鮫と申します。以後お見知りおきを、美しい奥方様……ああ、いいですね、いいですね、いいですね…」

「あ、あの僕……真庭…ぺ、人鳥と言います。よ、よ、よろしく、お願いします」

「初めまして、右衛門左衛門ちゃん! 私は真庭狂犬ちゃんよ。これからも鳳凰ちゃんをよろしく頼むわね!」



真庭忍軍の頭領達一人一人から丁寧に自己紹介をされ、右衛門左衛門は壮観に浸る。
こうまで親身に接してくれようとしている頭領達に彼は意外と驚愕と嬉々を感じていた。

鳳凰から頭領達は性格が破綻しており変わり者も多いと聞かされていた。
だからこそある程度覚悟はしていたつもりだったが、それが良い意味で覆されたのだ。
確かに不可思議な人物もいるようだが、皆仲間思いだというのがひしひしと伝わってくる。
そして一重に、家族思いなのだとも。

不意に鳳凰が右衛門左衛門の顔を覗き込む。
困惑が解消された彼に、朱い忍は少し意外そうな視線を向ける。
しかし直ぐに表情を微笑に変えると、鳳凰は右衛門左衛門に穏やかな声色で告げた。


「一週間、よろしく頼む」






























ハロー、ビッグファミリー
(さぁ、今夜はご馳走よ!)
(何ぞ今日は張り切っとるな、狂犬)
(家族が増えて嬉しーんだろ、きっと)







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