刀*語

□サンパブロ通りの天使
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Solo piensa carino mio
(俺が唯一こだわるのはお前への愛)

a ver te tengo
(ずっとお前と一緒に居る事だけ)

―――…なんて。
そんな陳腐な台詞を、今なら、此処でなら、おぬしの前でなら。
我は何の躊躇いもなく宣えるだろう。




















「―――見つかったわよ。鳳凰ちゃんが捜していたあの子、」


そんな、狂犬の一言がそもそも事の発端だった。
不意に、何の変化も無い日常の中に飛び込んできた吉報。
待ち侘びていたとは言え、やはりそれは欣然よりも驚愕の方が大きかった。


「……本当なのか、それは」
「ええ、間違いないわ。個人データから写真まで全部人鳥ちゃんが入手済みだから」


あの時狂犬は手元の書類を捲りながら言った。
我が長年捜し続けてきたあの男の消息を、やっと掴めたという情報の数々を。
この時をどれ程待った事か見当も付かない。
それ程までに我は、歓喜し期待を膨らませていたのだ。


あの男と再会する事に。


真庭忍軍。
その様な呼称も、現在では過去のものと定義する他ない。
何故なら今の我等は単に、忍ではないからだ。
とある大手企業の会社、そこで働くただの社会人に過ぎないのである。
我はその会社の単なる最高責任者を務めているだけ。
そう、ただ前世の記憶を受け継いだ、ただの人間に過ぎないのだ。
忍法は愚か、昔の忍としての身体能力などもある筈もない。

気が付いたら、遥か未来であった後世に生まれていた。
真庭忍軍12頭領、その全員が例外なくそうなった。
あの奇策士達の様に刀集めに関わった様な面々も皆そうだった。
形は少し違えど、昔の様に関わる事が出来た。
ある例外を除いて。

何処を捜してもいなかった。
あの男だけは、何処にも。
あの男が忠誠を捧げたお姫様は居るにも拘わらず、である。
否定姫は奇策士等と一緒に居る。
だが、その側には、あの男は居なかった。

居ない筈がなかった。
皆生まれ変わっているのに、あやつだけなど。
だから我は必死になって捜した。
会社を大きくさせたのはあの男がこちらを見つけ易くする為。
最高責任者にまでなったのも全て我はあの男を捜す為であった。
例え何年もの時間が掛かってでも。
我は、あの男を必ず見つけると決意していた。


それが今、成就されようとしている。
後は任せた、と狂犬に会社の一切を託してきたのは四日前の事。
急いで飛行機に飛び乗ったのが三日前の事。
そして、我が日ノ本から外国へと――しかも欧州へと足を運ばせやって来たのは、丁度昨日の事だった。






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