刀*語

□ただの昔日
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「―――×××!」


遠くの空を見る様に、野原に寝そべる少女の耳に少年の声が聞こえる。
上半身を起こし辺りを見渡す動作を行えば、朱色の少年が小走りで駆けて来るのが分かった。
新緑の原の中には存在しない、色鮮やかな花を手にしながら。


「…鳳凰。一体どうしたんだ、その花は」
「向こうの丘で摘んできた。沢山あってどの花が良いのかは決め兼ねたが」
「へぇ?」
「異国では、花はこうして使うものらしい」


片手いっぱいに色取り取りの花で出来た束を掲げながら少年は笑う。
それに赤毛の少女は彼の言葉に小首を傾げながら相槌を打った。
不意に少年の手の中の花束が少女の両手へと渡される。
驚く彼女に構う事なく、朱い少年は真摯な表情で口を開く。



「我と結婚して欲しい」



「……っ…え…」
「今は無理だが、大人になったら、我が一人前の忍になったら、必ず。必ずおぬしを幸せにする。だから、」


つっかえつっかえになりながらも、顔を赤くしながらも少年は一心に少女に伝える。
花に埋もれた白い手を握りながら、彼は真っ直ぐに赤毛の娘を見つめた。

少年の熱烈な告白に呆けていた少女。
だが不意に彼と同じ様にぽん、と顔を紅潮させる。
恥ずかしげに少し俯いたかと思えば、また少年を見つめ返して微笑んだ。
少しはにかんだ様な甘い笑顔で、少女は少年に返事を返す。


「ありがとう、鳳凰」
「…………」
「大人になるまで待ってるね」
「…っ…ああ。ああ、そうしてくれ!」


嬉しそうに笑う少女に気恥ずかしくなりながらも少年は力強く頷く。
更に笑みを深める少女に、少年の胸には愛おしさしか浮かばない。

小さな恋人達の未来の約束事は、こうして色彩鮮やかな花々と共に結ばれたのだった。

























ただの昔日
(昔は素直に我の言葉に頷いてくれたものなのに…)
(……何時の頃の話をしている)
(おぬしは何時になったら我の元へ嫁に来るのだ)
(頷かず。今は仕事が忙しいのだ、そんな事に構ってなどいられる筈がないだろう)
(Σそ、そんな事…!?(泣))







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