刀*語

□世界の言葉で愛を紡ぐ
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鳳左現パロinスペインの派生。
もしもアレがハピエンで終わってたら。
その後。









「―――確かお前は大企業の頭取だったな、鳳凰」


唐突に投げ掛けられた問い掛け。
テーブルの向こうのギタリスタに真っ直ぐに見つめられ、口に付けていたコーヒーカップをソーサーに乗せた。


「…ああ、確かにその通りだが。それがどうかしたのか?」
「お前は何ヶ国語話せるのだ?」


再び返ってくる問いに僅かに面食らう。
普段あまりお喋りではない仮面にしてみては、今日はかなり機嫌が良いらしい。
カップを指先で遊ばせながら、右衛門左衛門は言葉を紡ぐ。


「世界に名高い真庭コーポレーションの頭取なのだ。仕事の為に幾つかの言語を学んだのだろう?」
「まぁ…そうだな」
「私は日本語とエスパニョルしか話せないが、他国の言葉には少なからず興味がある」


だから試しに話してみろ、と。
小首を傾げて無言の要求をしてくるものだから反論出来ない。
恐らく無意識な仕種だろうに。
その分質が悪い事である。

さて、どうしたものか。
そういった意味合いを込めて椅子に凭れ掛かる。
第一自慢出来る程流暢に話せる訳ではない。
特に話すべき表現があるべきでもない。
だからといって挨拶程度の言葉ではこの男は納得してはくれないだろう。

早くしろ、と仮面越しの視線が促す。
いよいよ困った、と独り言ちるのも束の間、不意に閃いた。
ソーサーごとカップを傍へずらし、上半身を右衛門左衛門に近付けて一言。
先ずは一ヶ国目だ。


「I love you.」


それを聞いた途端、ポン、という音が出そうな程に白い頬が一気に色付いた。
流石に英語は理解出来るらしい。
絶句している右衛門左衛門を差し置き、畳み掛ける様にして更に続ける。


「Ti amo」
「…っ……」
「Ich liebe dich.」
「や…止めろッ……」


どうやら勘付かれたらしい。
我が先程からある一言を多言語で言い回している事に。
因みに今のはイタリア語とドイツ語だ。
まぁ有りがちな所の言語だろう。


「Je t'aime」

「Ik hou van jou」

「Amo-te」

「Szeretlek」


フランス、オランダ、ポルトガル、ハンガリー、と。
一言一言に甘さを含ませて囁けば、更に右衛門左衛門は赤面する。
気恥ずかしさのあまり逃げを打つのも仕方ない事か。
しかし、それを良しとせず細い手首を掴み手を握り、逃げ道を断つ。
困惑した様に口許を引き結ぶ様の何と愛おしい事か。
綻ぶ自身の口端さえ抑えようとはせず、また甘く言葉を紡ぐ。


「Te quiero」


不意に右衛門左衛門が俯かせていた顔を上げる。
聞き慣れた第二言語に少し驚きを覚えたようだった。
呆けた様に見つめ返す男に我はこれ以上ない欣然を感じた。
こんなにも愛しい懸想人がこの時代にも側に居るという事を幸福に思った。
更に身を乗り上げ、椅子から腰を持ち上げ仮面に近付く。
耳元に唇を宛がい、今度はスペイン語でも何でもない言語を囁いた。
それが日本語で、どんな言葉を宣ったのかなど言うまでもない。






























世界の言葉で愛を紡ぐ
(愛しておるぞ)






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