刀*語

□気紛れバケーション玖
1ページ/4ページ



※後半、若干ながら如何わしい描写にご注意!










「―――…そういえば、明日だったね」


宵口。
夕食の後、頭領達が席を立つか立たないかというその時。
片付けの為茶碗を集めていた鴛鴦が、不意に顔を上げて右衛門左衛門に話し掛ける。


「明日…?」
「ええ。明日、」
「ああ。そういえばそうだったな」
「何だ何だ、何の話だよ?」


思い出した様に相槌を打つ右衛門左衛門。
その言葉に蝙蝠がいち早く反応し訝しんだ。
他の頭領達も疑問に思ったのか一斉に視線を洋装仮面に向ける。
少しその注目に驚くが、直ぐに彼はその怪訝に答えた。


「私が尾張に帰る日にちの事だ」
「「「……………は?」」」
「明日で丁度一週間になるからな。明朝、姫様を迎えに出雲へ経たねばならない」
「「「…えええぇぇ!?」」」


淡々と告げられた言葉に蝙蝠、川獺、白鷺は食卓から身を乗り上げて驚愕する。
彼等以外の八人――この時喰鮫はまだ帰って来ていない――は面食らいはしたが納得した様に頷いた。
皆、当初の話を思い返しているのだろう。
仕方ない、と割り切った様な表情の者が殆どだった。


「何だよそれー…」
「のーねんまつ、ぇち」
「本当だぜ…何だよ、折角楽しくなってきたっつーのに……!」


心底残念そうに唇を尖らせる三人。
拗ねた様に言葉を紡ぐ様も、右衛門左衛門の口許を綻ばせるのには充分だった。
たった一週間の居候生活だったが、よく懐いてくれた年下の、弟分の様な三人だ。
後ろ髪を引くかの如く呟かれた言葉に嬉しいと思わない訳がない。


「もういっそ此処で暮らしちまえよ」
「それは流石に出来ないが…また訪ねさせて貰おうとは思う」
「なら少しは報われるじゃんよ」
「で合割の回五に週あゃじ」
「出来ず。私にも仕事がある、そんな頻繁には無理だ」


駄々を捏ねる三人に右衛門左衛門が諭す。
その様子を見つめながら、鳳凰と狂犬は顔を見合わせた。
まるで自分達の先程していた会話を代わりに声に出されている様で。
未だ非難する三人の忍を諌める右衛門左衛門に、二人はどちらともなく苦笑を零した。

考える事は皆同じなのだと。
真庭の者が抱く仲間意識――否。
家族意識の強い言葉に同調と自嘲が、根強く胸中を満たした。




















「本当にあの三人はよく懐いてくれた」


場所は変わり鳳凰の私室。
亥の刻、真夜中に近付いてきた頃。
布団を敷き、整えていた右衛門左衛門が不意に呟く。


「それに、人鳥も…か」
「何も蝙蝠達や人鳥だけに限った事ではないだろう。皆おぬしに好感を抱いていたからな」
「…他の頭領達がか?」
「先刻に皆寂しかっておった。もう帰ってしまうのかとな」
「……肯んぜず。それは、仕方のない事だろう」


第一私や皆は忍なのだから、と。
紙燭の光に照らされた右衛門左衛門の表情が口許だけで笑んだ。
それは先程彼が三人の頭領等に向けたもので。
当惑しながらの苦笑を、鳳凰は笑い返さずに注視する。


「………鳳凰?」
「…………」


じ、っと無表情のまま右衛門左衛門を見つめる。
その鳳凰の様子に、仮面は怪訝そうに小首を傾げた。
低く結われた彼の紅く艶やかな髪がぱさりと項から鎖骨へ垂れる。
柔媚に流れた長髪に映える、真っ白い肌の上の硬質な面に鳳凰は手を伸ばした。

まるで先日この眼前の男に触れた時の様に。
頬に触れ、肩口に手を添えるとそのまま力を加えた。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ