婆沙羅3 第二陣

□昔のてふてふ
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情事後。
描写とか会話とか諸々注意!





刑部、と囁く様に呼べば向けられる流し目。
上気した肌と荒い息遣いは先の情事の余韻を色濃く残し、潤んだ瞳はそれ故に酷く艶めかしい。
所々解かれた包帯の下の膚に口付けを落とすと、引き攣れた吐息が零れ煽情的だ。
しかしもう一度色欲に溺れる事よりも胸中に抱いた気掛かりの方が勝り、三成は吉継を覗き込むと少し不機嫌そうに口を尖らせた。















「……どうした、三成…」


整わない呼吸の合間に目の前の男の名を呼ぶと、更に表情を険しくする三成。
吉継はそれに疑問を抱きながらも、未だ体を離そうとしない彼に焦燥を強く感じていた。
快楽の余韻と倦怠感の抜け落ちない体躯では少し彼が動いただけでも苦痛である。
三成を受け入れた下肢はほんの僅かな刺激をも汲み取り、病の所為で体力のない彼女を苛んでいた。


「みつな、り…?」
「……刑部、貴様に一つ聞きたい事がある」
「…聞きたい事、とな……」


何だ、と吉継が問う前に男は突然彼女から身を退く。
唐突に与えられた悦楽の波に思わず息を飲む吉継。
優しく三成が腕に彼女を抱いても、その刺激故に細い身体が震えているのが如実に知れた。
やり過ごそうと目を瞑り堪える女の目尻に唇を落とし、塩辛い滴を掠いながら口を開く。


「貴様が初めて私を受け入れた時、」
「……?」
「貴様は、処女ではなかったな」
「な…」
「私以外にも、身体を委ねた男が居るのか」


ゆっくりと目を開くと、眉間に皺を寄せこちらを見遣る三成の姿が。
吉継はその不服そうな表情の彼に何度か瞬きを返した。
何と言葉を返したら良いか咄嗟に思い付かなかったが為に。

三成と床を共にしたのは今宵で二度目。
思えばあの日三成が強引に吉継を組み敷いた時以来の事である。
意思疎通の後こうして再び身体を重ねたという事は、互いに分かってくる事もあるというもの。
今回は特に三成が疑問を持っただけの事であり、決して不可思議な問いではなかった筈だ。

尤もな、男であるならばきっと訝るであろう事に内心吉継はどうしたものかと思う。
下手に誤魔化しをし尾鰭背鰭を付ければ後々綻びに頭を悩ませるのは彼女自身であろう。
ここは正直に事実を話すべきだと、吉継は少し目を泳がせた後三成に口を割った。


「…昔の話よ」
「…………」
「いや、違うな……若気の至りか」
「ッ…何時の事だ……!」
「そうよなぁ…ぬしがまだ小姓として豊臣にやって来て間もない頃よ」


目角を立てて問い詰める三成に、吉継は僅かに目を細めながら答える。
そのからかいとも苦笑とも言い切れぬ彼女の表情に、男は焦燥を胸中に蓄積しつつも更に問い掛ける。


「誰だ…貴様の操を奪った輩は…! 私の知る者か…!?」
「…豊臣時代に居た者には違いなかろ」
「家康か」
「あれはぬしと変わらぬ年頃であったわ」
「…! まさか…秀吉様…!?」
「太閤に一夜の寵を承るなど恐れ多くて堪らぬ」


真摯な表情で試行錯誤する三成。
その様子を見ていた吉継は、これ以上示唆を彼に与えるのを止めた。
下手をすれば相手だった男を言い当てられ、その者が三成の手によって屠られるだろう。

例えば南の果ての洞窟に飛ばした暗と呼ばれるあの男であろうとも。
たかが操の一つや二つの事で凶王に縊り殺される理由が何処にあろうか。

ぎりぎりと得体を知らぬ誰かに対し憎悪を露わにする三成に眼前の女は柔く微笑む。
奥歯を噛み強張った頬を膚の見え隠れする掌で撫でれば、途端に彼は焦燥を驚愕に変え大人しくなった。
まるで操を自分が奪いたかったとでも言う様な三成の態に嬉しいと感じない訳がない。
この時ばかりは、吉継も昔の自分の愚かさに僅かながら悔いた。


「そう言うぬしはどうなのだ、三成」
「何の話だ」
「ぬしの貞操は、我が貰い受けられたのか?」


悪戯っぽく囁けば、三成は顔を紅潮させ閉口した。
吉継の艶なる笑みと、普段の彼女からは決して聞かれないであろう言葉に彼は激しく動揺したのだ。
無論彼女は無自覚で言っているのであろうが。


「……、…だ…」
「うん? …すまぬ三成、よく聞こえぬが」
「ッ……私は、貴様が初めてだった!」


銀色の柔らかい髪が彼女の華奢な首筋に落ちる。
狭く薄い肩口に三成の顔が埋められると、吉継は不審に隣を見遣る。
聞き取れなかった言葉を耳元で呟かれ、彼女は思わず目を見開いた。

思いがけず返ってきた返答に、吉継は微笑まずにはいられない。
顔を真っ赤にしながらも彼女の思うように素直に口を開いた三成がこの上なく愛おしかった。
適度に筋肉の付いた背に腕を伸ばすと、吉継は緩く男を抱擁しその広い肩を優しく叩いた。

目元を赤く染めた萌葱と目が合う。
恨めしく見つめられる事すら照れ隠しだと分かっている為可笑しくて堪らない。
くつくつと喉奥で笑っていると、普段は口布などで覆われている筈の唇を三成によって掠め取られていった。






























昔のてふてふ
(やれ三成、聞きやれ)
(…………)
(我は確かに初はぬしにやれなんだが、我はぬしから初めて真の快楽を得たぞ?)
(…っ…!)
(そういった意味では、床の所作はぬしとが初めてよ)
(刑部…!)







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