婆沙羅3 第二陣

□スイッチ作動3秒前
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「―――くしゅん!」


突然聞こえてきた噴出音。
何かと思い振り向けば、そこには書を読む吉継の姿が。
気の所為か、と再び首を戻せばぷしゅ、ともう一度聞こえる小さな音。
再度振り返り三成が凝視すれば、丁度吉継が鼻を啜る処であった。















「……刑部、」
「うん?」
「今のは貴様か」
「うむ…最近はやけに冷える故」


吉継の自室。
常の如く三成が彼を訪ねそのまま何をする訳でもなくゆっくりと時間を過ごす。
そんな中突如聞こえた音――所謂くしゃみの音なのだが――に振り向けばこの返事である。

確かに最近めっきり冷えてきたようだ、と三成は改めて独り言ちる。
師走となれば本格的に冬の到来か、いやしかし。
まだ小さくぐすぐすと鼻を鳴らすしている吉継を注視する。


「口布越しにでもくしゃみは出るのだな」
「こればかりはどうしようもないわ」
「風邪か」
「そうやもしれぬな―――…くしゅっ!」


再び。
その後二、三立て続けにする様を三成は硬直してしまう。
彼は不覚にも、否これは不覚以前の問題である。
可愛い。
可愛過ぎる。

表面は冷静にしているものの、三成の心中は穏やかではない。
何故その様な可愛らしい音が出るのか。
しかも異様に噴出音が小さい、何故だ。
もう女子のするそれではないか、いや寧ろそれ程までであるならば仔犬のするそれに近い。
余程体が冷えてきたのだろう、それさえもいじらしく見えて三成は動揺しっぱなしだった。


「三成…?」
「火鉢の炭を持って来る。このままだと本当に風邪を引く」
「ではぬしがこれを着ていくべきであろ」
「私はいい」
「何故に」
「いいと言ったらいい」


立ち上がって三成は自身が着ていた羽織を吉継の肩に被せてやる。
火の熱の勢いが弱まってきた火鉢を見兼ねて継ぎ足す為の炭を取って来ようと敷居を踏む。
途端に吉継が肩のものを三成にと掴むが彼は断固拒否して部屋を出て行った。
無論、虚勢である。

確かに少し寒かったが、顔に集中した熱を逃がすには持って来いだ。
危うく桃色の空気に走りそうだった自分を何とか抑えられた。
ついでに生姜湯も持って行ってやろうと、三成は廊下の角を曲がりながら静かに思った。






























スイッチ作動3秒前
(抑えられた? そんな訳ないだろ)
(もう既にスイッチ入ってるから逃げて来たんだよ、絶対)







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