婆沙羅3

□解き放たれた枷
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「───来いよ、」


低く掠れた声音で、目の前の御方は自身の家臣であるこの俺を誘う。
その切れ長の隻眼は甘く溶け、薄く水の膜が張り酷く煽情的だ。


「小十郎…」


耳朶を嬲る様に名を囁かれる。
形の良い唇に艶やかな微笑が浮かぶ様に、堪らず腕の中へと己の主人を閉じ込めた。
華奢な体躯を強く抱き締めると、苦しげな、それでいて熱っぽい呻きが政宗様から漏れる。
その熱い吐息にさえも欲を駆られ歓喜する自分に、自己嫌悪を覚えた。

手を出さないと、決してこの想いを伝えはしないと。
そう誓い、今まで心を抑え込んでいたというのに。
必死に最後の理性を保とうと奥歯を噛み締める。

これ以上足を踏み外せば、今までの主従という関係が崩れていってしまうだろう。
だがそんな俺の迷い、悩みとは裏腹に、政宗様は腕の力を解き始めた俺の背に御自分の腕を回す。
それに俺が驚愕する暇も与える事なく、この御方は至極穏やかで落ち着いた声色で再度囁く。


「Hey,小十郎……野暮は無しだぜ?」
「…政宗様……小十郎めは…───…」
「Don't be afraid. もう周りの目なんざ気にする必要はねぇ」


───“お前のモンになりてぇんだよ、俺は。”


呟かれた言葉に目を見開きながら、俺の胸に体重を預けてくる主を見やる。
まるで猫が喉を鳴らしながら甘えてくるかの様に、頬を擦り寄せて身体を密着させてくる様に眩暈を覚えた。
一体この御方は何処まで俺を煽れば気が済むのか。


「Come on,小十郎…Please hold me so tight」


抱擁を解きかけた腕を、再び政宗様の細い肢体に回す。
この御方の望む通りに強く抱き締めると、不安から解放された心はいとも簡単に理性を捨て去った。
もうどうなろうと構いやしない。
これまでもこの先も、尽くすべき御人はこの御方唯一人なのだから。

ゆっくりと唇を近付けていくと、政宗様は満ち足りた表情で隻眼を閉じ口付けを受け入れた。















解き放たれた枷
(My first kiss in your arms)
(長年の葛藤から解放された今、一生貴方様をお慕い致しましょう)







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