婆沙羅3

□A little jealousy
1ページ/1ページ






ひらり、ひらりと。
目の前を軽やかに舞い落ちていく薄紅色の花弁。
それを目で追っていくと、不意に視界に入る燃える様な緋色。
こちらに向かって一心に駆けて来るその赤に、思わず口端を持ち上げた。


「政宗殿!」


俺の名を叫ぶ様に呼びながら元気良く走って来たのは、甲斐の若虎と称される真紅の青年。
もしコイツが犬だったら、尻尾を振り千切らんが如くに振っているだろう。
そう思える程の満面の笑顔を湛えて片手に持っている物を掲げて見せる。


「茶菓子でござる! どうか召し上がって下され」
「…Thanks,幸村。ついでにアンタも隣で喰ってけよ」
「は…いや、しかし! 某は、政宗殿にと思って…」


俺の為に、か。
随分Prettyな事言ってくれるじゃねーの。


「いいから、此処座れ」
「か…かたじけないでござる」


伏せて置いてあったもう一つの湯呑みを押し付けて、先にコイツが持って来た茶を注いでやる。
すると座らざるをえなくなった幸村がやっと腰掛けに腰を下ろした。

こうして大人しく茶を啜ってると、俺も甘くなったとつくづく感じる。
敵と、しかもその敵地で、呑気に桜の下で花見をしているのだから。
いや、落ちぶれた、と言っても良いのかもしれない。

何せ、この好敵手だった男に、俺はすっかり入れ込んでいるんだからな。


「にしても、また豪勢に咲いたな」
「此処は某の見つけた絶景中の絶景である故。丁度今この時期が見頃でござるよ!」
「I see…」
「存分に楽しんで下され、政宗殿」
「そーいうアンタは、花より団子を地でいってるみたいだがな」


俺へ差し入れにと持って来たという三色団子を、口いっぱいに頬張る幸村。
甘味好きだという趣向が祟ってか、俺が手を付ける前に既に2本が串のみになっている。
それが笑えて笑みを浮かべていれば、気不味そうに視線を逸らしながらも返ってくる弁解。


「こ、これは、その…!」
「No worry.元々アンタが持って来たモンだ、気にしてねーよ」
「そ、それはならんでござる! が、しかし……」


少し赤面して言葉を紡ぐその様が微笑ましい。
相当焦っているのが見て取れる。
だが、突如語尾を濁したコイツにらしくないと思い訝しんでいると、滅多に無いだろう筈の苦笑が返ってきて。


「佐助の寄越してくる団子というのは、某の大好物でござる故」
「……Ah…アンタんとこの忍か」


その名を聞いた途端、自分の片眉が逐一反応したのが分かった。
あの武田に従えてる草の者、か。
まぁ誰とかそんな事はどうでもいい。

ただ、この目の前の男の口から聞いたものだと思うと、残念に感じるし、何よりも腹立たしい。
幸村が此処には居ない筈の誰かの事を話しているだけでも嫉妬の念が起きる。

今、こうして短い時間の間だけでも、こっちを、こちらだけを見ていて欲しい。
などとは、Prideの高い俺には口が裂けても言えないものだが。


「Oh,my goodness……」
「…政宗殿? 如何なされた?」


隣で怪訝そうに見つめる緋色の男に構わず頭を抱える。
ここまで来ると最早重症だな、と思う。
咄嗟に惚れた方の負けだなんてよく言ったものだ、と思ってしまった自身のおつむに自己嫌悪。
花見なんざやっていられるような状況じゃなかった。















A little jealousy
(片想いの相手の部下に嫉妬、だなんて)
(I'm so crazy! 俺も随分落ちたモンだ)






100523.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ