婆沙羅3

□滑り落ちてく感覚
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グロ表現注意(?)








熱い。
熱い熱い熱い熱い、憎い。
この世の全てが憎い。
そして、ただただ、紅い。















「刑部様ーッ!」


丁度目の前の雑兵を全て倒し終わった処で名を呼ばれた。
些か畏怖の念が過ぎるその声音は聞き慣れた伝達係のもの。
転げる様に駆けて来たそれに輿を向けながら問うた。


「でッ…伝令でござりまする!」
「どうした、三成が敵大将の首でも取ったか」
「それは、そうなのですが…! 三成様が…!」


焦燥極まりないその様に思わず仮面の下の眉根を寄せる。
一体どうした、三成の身に何かあったとでも言うのか。
同行を請われ再び転ぶ勢いで走る兵の背を追った。
一時でも三成の側を離れた事に、我はこの時既に悔いていた。




















「何と…」


包帯に覆われた口から自然と零れる感嘆。
いや、寧ろそれは驚愕に近いものであったやもしれぬ。
眼前に広がる光景は凄まじいの一言に尽きる。
今更ながら先の兵の恐慌が分かる気さえもした。


三成が暴れ回っている、と。
そう知らされた時はああまたかと溜息を吐いていた。
あの男が戦の場で鬼神の如く敵兵を薙ぎ払う様はよく目にする事だ。
此度もその類いと高を括っていた。

然しまぁ、何とも甚だしい勘違いをしていた事か。
日常の暴れ様とは比べるまでもない。
何故なら地に飛び散った血飛沫の具合が常とは違う。
血の海とはこの事を言うのであろ、と頭の片隅で悠長に考える我は相当参っていた。


兎に角、辺り一面余す所なく真っ紅よ。
土も人の屍骸も、勿論その中央に佇む三成も全て、だ。
どの様にすればここまで斬り刻めるのかと問いたくなる程死骸は元の姿を窺えぬまでに刻まれ、
どの様にすればここまで紅くなるのかと問いたくなる程三成は頭頂から爪先まで血水を浴びておった。

血肉の中、肩で息をする三成を遠目で見遣る。
一人として豊臣の兵が細切れになってはおらぬ事を確認し少し安堵した。
然し近付けば万一斬り殺されるか分からぬ故、誰も三成の側には寄れぬのであろ。
その為我が遣された訳だ。
やれ、面倒な…

足音を立てぬ輿を進ませる。
容易く気付かれるものでもないと思っていたが、直ぐに三成が顔を上げた為その場で止まる。
紫暗の空気を纏いながら紅く輝く双眸を我に向ける三成は、よもや我が誰だかも分かってはおらん様だった。






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