婆沙羅3

□源氏香を聞く
1ページ/6ページ






いつもの様に刑部の部屋を訪れた。
そこまでは良かった。
だが、何故、“奴等”が居る。















「…何をしている」


襖に手を掛けた状態のまま三成が部屋の奥の人物等に問い質す。
そのしゃんと整った眉は深く眉間に皺を刻み、彼が不機嫌である事を一心に伝える。


「何故貴様等が此処に居る」
「…三成、」
「よう、三成。邪魔してるぜ」
「何ぞ貴様、居ったのか」
「質問に答えろ」


ばたん、と大きな音を立てて障子張りの戸を壊さんが如く開け放つ三成。
暢気に返事やら挨拶をする三人を目の前に勝手知ったる部屋の持ち主の前まで歩く。
半ば呆れた様に目を細める吉継の側に寄り、客人であろう瀬戸内を治める二人を指差し再度問うた。


「何故奴等が此処に居る」
「…やれ三成よ、ちと落ち着け」
「私は至って冷静だ」
「此処へ参ったは他でも無い、大谷に用があった故」
「刑部にだと? 何の用だ」
「コイツを渡すついでにな。ちょっくら大谷と世間話でもしてたんだよ」


胡座をかいた元親が上等な布に包まれた何かを数個三成の前に出して見せる。
手鏡程の大きさも無い小さな包みは、見た目に相応し随分軽いようだった。
その内の一つを畳に広げながら元親が説明する。


「異国から入ってきた沈香だ。運良く六国五味全部揃ったから大谷にも分けてやろうってな」
「我が香を好む事はぬしも知っておろ」
「ああ」
「俺も詳しい方だからな、こうしてああだこうだ言ってる訳だ」
「フン、未だ姫若子の名は廃れてはおらぬか」
「そ、それを言うんじゃねぇ、それを」


元就の言葉に元親が小さく目尻を朱くし憤慨する。
海賊として外国からの貴重な物品を取り扱う反面、西海の鬼は幼少期の嗜みを好んだ名残を色濃く残している。
その図星を突かれ、元親は盟友等の居る場である事から居心地悪そうに視線を泳がせた。

黒ずんだ枯木の破片の様なものを三成はまじまじと見遣る。
彼が常に見掛けていた沈香とは香炉に乗った銀葉であった。
その為、現物を見て少なからず珍しがっている様子だった。


「…興でも抱いたか、三成よ、」
「…? いや…」
「いや何、丁度長曽我部と聞香でもと思っていた処よ」
「アンタもやるかい? 三成、」
「…………」
「毛利、アンタはどうする?」
「ただ行うだけではつまらぬ。いっそ組香でもするのならば我も乗ろうぞ」
「さようか。…やれ三成、一つ勝負事とどうだ」


包みを再び布に包み、元親は準備をする為に一度席を立つ。
それを横目に茶を啜る元就の前、吉継は此処に座れと言って三成を促す。
それに素直に従う彼の様子から、組香に参加するのだと吉継は三成に遊戯の決まり事を説明した。






























源氏香を聞く






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ