婆沙羅3

□温泉巡りの旅に出ます
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混乱は唐突にやって来る。
それをここまで痛感するなど思いも寄らなかった。















よく晴れた昼下がり。
太陽が充分に蒼天に昇った刻。
執務を終え、吉継が自室で静かに書物を読んでいた時であった。

渡り廊下から人の足音が聞こえる。
吉継の部屋へと訪れるのは大抵身の回りの世話をする者か三成しかいない。
だが、今まさに近付いて来る足音は女中達の様に慎ましやかで静かなものではなく。
自身の立てる騒音など全く意に介していない様なものであった。
この様な無骨な行動を取るのは一人しか心当たりがない。


「―――刑部、」


すぱん、と障子が開け放たれ、眩い日光が部屋の中に差し込む。
突然瞳孔が狭まる程の明るさに目を細めながら、吉継は逆光を背に浴びる三成を見遣った。


「…どうした、三成」
「執務は済んだのか」
「ああ、早に終わった」
「ならいい」


我が物顔で敷居を跨ぎ、三成は吉継の側へ歩いて行く。
一方吉継は友の言葉に小さな疑問を抱いていた。
“ならいい”とは一体どういう意味なのか。
彼は何か自分に用があってわざわざ此処まで来たのだろうか、と。
その彼の言葉の意味が分かったのは、三成が吉継の眼前に仁王立ちし、堂々と話の続きを述べたからであった。


「薩摩の硫黄泉に行くぞ」


「……何…?」
「何度も言わせるな。温泉に行くぞと言っているんだ」


当然の様に言ってのける三成。
その彼の様子を、吉継は茫然と見上げそして溜息を吐いた。

三成の背中越しからは、小鳥の囀りのみが穏やかに囁かれていた。






























温泉巡りの旅に出ます
(刑部、)
(…………)
(…おい刑部、返事をしろ)






100913.
 

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