婆沙羅3

□温泉巡りの旅に出ます弐
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「…三成よ、よもや真に鬼島津の硫黄泉へと行くつもりか」
「当然だ」
「九州とは…ちと遠過ぎるのではないか?」
「知るか」
「…………」















三成のあまりな返事に吉継は閉口してしまう。
何とも奔放な言い分である。
普段から何処か自分勝手な言葉を彼の口から聞いた事があった。
しかし今この時ばかりはいくら三成に甘い吉継でも直ぐに折れる訳にはいかなかった。

どういう事か三成は突然吉継に温泉に行こうと言い出した。
しかも近場の手頃なものではない。
九州の硫黄泉にまで行こうと随分大それた事を言っているのだ。

此処から西の果てまで行くのにはかなりの時間が掛かる。
戦時ならばまだしも、平時の際の遠出などかなり難しい。
道の確保という問題ではない。
執務も溜まる一方であろう。
とても三成に頷ける筈がなかった。


「しかしな、三成。何故急に九州なのだ」
「何を言っている、刑部。貴様が行きたいと言っていたのだろう」
「…? はて…一体何の事だ?」
「以前鬼島津が此処を訪れた時に、硫黄泉に行きたいと」


逆に驚いた様に言う三成に吉継は困惑する。
そしてその後に紡がれた彼の言葉に、やっと先日――と言っても、かなり前の事だが――の九州を纏める鬼島津と呼ばれる男との会話を思い出した。


“吉継どん、一度おいの硫黄泉ば浸かりに来るとよか!”
“九州へとはちと骨が折れるが…そうよなぁ、一度は行ってみても悪しくはなかろ”
“それがよか。また今度、三成どんとでも一緒に来んしゃい”
“さようか”


よもや三成がその会話を聞いていたとはいざ知らず。
そしてまた覚えていたという事に吉継は驚き、目の前の男に視線を寄越す。
吉継の前を歩く三成は、後ろから彼がきちんとついて来ていると知っている為か、真っ直ぐに前を見つめている。


「……して、出発は何時だ」
「今日だ」
「…やれ、それはまた急な…」
「仕度をしろ、刑部。荷物持ちももうすぐ到着する頃だからな」
「荷物持ち?」


再び勢い良く障子を開ける三成の言葉に疑問を抱える。
吉継は解せないその意味に小首を傾げた。
足軽でも何かしろ呼んでいたのであろうか。

そう思っている間にも渡り廊下の向こう側から足音が聞こえてくる。
丁度曲がり角で見えなくなっているそこから誰かがやって来ている。
その木材の軋む音に混じり、鎖を引く様な音がしている事から吉継は直ぐにその荷物持ちの人物を悟った。






























温泉巡りの旅に出ます弐
(何とまぁ…)
(これはまた、面白うなってきた)







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