婆沙羅3

□温泉巡りの旅に出ます肆
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そよ風が舞う。
小鳥が囀る、茶の香りがする。
何処までも穏和な雰囲気に宛てられ、吉継は思わず日柄の良い空の雲を眺めながら呟いた。


「………平和よなぁ…」















「…刑部、」
「…三成か、どうした」
「道中は長い。貴様は何か食べなくていいのか」
「先の民家で朝餉を食べたばかりである故、そう多くは我には食えまい」
「…そうか」


腰掛けに座る吉継の隣へと腰を下ろし、三成は彼に問い掛ける。
旅路の途中での事を案じた言葉であるが、吉継は大事無いと三成に伝える。
更に隣に座った友が食い下がる事はなかったが、隣で吉継と同じ様にじっと空を見つめた。


「…官兵衛はどうした」
「暗か? 馬の手綱を結わえておるのであろ。直に来る」
「ならいい。奴は直ぐ抵抗したがるからな」
「弁解も出来ぬな」


する気も無いが、と付け足す吉継に三成は鼻で笑う。
足となる馬を休ませる為、峠茶屋で茶を啜り一服する一行。
鳶が空を旋回し高く鳴く中、三成は皿に鎮座する団子を一本摘んで口に運んだ。

この時点まで三人は順調に旅路を進んでいた。
島津の住まう地まではまだまだ距離があるものの、既に九州の地を踏んだ一行である。
これしきの距離など取るに足らないものだろう。

暖かな気候に吉継が再び空を見上げる。
それ故に手の中にある湯呑みの茶が温くなった事にも気付かずにいる。
その隣で串を皿の上に置き、三成は茶を啜った。


「……刑部」
「…………」
「刑部、」
「うん? どうした、三成」
「大丈夫か」
「何?」


ぼうっと思考を宙へ飛ばしていると、三成が吉継の顔を覗き込んで名を呼ぶ。
まるで機嫌でも損なったかの様に眉を顰める彼に、吉継はしまったと思いながらも返事を返した。
そして、思いがけない言葉を投げ掛けられる。


「気候の変化にやられたのか?」
「いや、我は全く大事無いのだが…」
「本当か?」
「すまぬ。ついな、あの鳶を目で追っておったのよ」
「……ならいい」


不機嫌になったものと思っていた吉継であったが、彼の憶測とは裏腹に三成は黙ってまた茶を飲むだけであった。
しかし長年彼を見続けてきた吉継には、視線を逸らす際の三成の不安げな表情を見逃さなかった。
これは何かあったに違いない。
そう思い直すが、本人は至って平然とまた表情を元に戻してしまった為それ以上吉継は読みきれなかった。
常に直球にものを言う三成が自分から言わない時は放っておいた方が良い。
そう判断し詮索するのを止めた。

官兵衛がやっと馬の手綱を縛り終えたようで戻って来る。
呑気に茶屋の娘に茶と菓子を出すよう言う彼を傍目に、三成と吉継は未だ共に腰掛けに座り沈黙を紡いでいた。
団子を頬張りながらも、官兵衛は二人を怪訝そうに見つめるだけであった。






























温泉巡りの旅に出ます肆
(なぁ、お前さん等一体何してるんだ?)
(…………)
(……平和よ、平和)
(無視か)






100918.
 

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