婆沙羅3

□I just...!
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ぐらり、と。
急に傾いた己の躯に吉継は直ぐ様後悔した。
どうやら自分の体調を見誤っていたようだ。
眼前の友が驚く様を傍目で捕らえながら彼はどうする事も出来なかった。















「刑部!」


突如倒れ込む様に崩れ落ちる吉継。
そんな彼の身体を咄嗟に抱き抱え三成が声を掛ける。
吉継の腰、そして背中を両腕で支える一方で、彼の輿が床に鈍い音を立てて落ちたのが二人は分かった。


「大丈夫か!?」
「だ、大事ない…」
「嘘を付け、何処か悪いのか!」
「いや、ただの立ちくらみよ…」


連日の戦続きと昨晩の遅い時刻までの執務が祟ったのだろうか。
酷い眩暈を感じ身体を支え切れなくなり、吉継は三成の胸へと体躯を預けた。
少し朦朧とする意識の中、不快な頭痛が治まるのを待ち三成に声を掛ける。


「……それよりも三成、我を放しやれ…」
「何故だ」
「我は大事ない故、いい加減放してくれぬと困る」
「何が困るだ、貴様の容態が悪化する方が余程困るに決まっているだろう!」


問題ない、と言う吉継は明らかに虚勢ではあるが、彼の言い分は尤もである。
此処は吉継の部屋でなければ三成の部屋でもない。
れっきとした渡り廊下の真ん中だ。
そして刻も陽が大きく空に掲げられている程まだ明るい。
その中で身体を抱き締められる形で支えられているなど恥以外の何物でもない。


「や、やれ、止めぬか三成……!」


些か吉継が離れようと藻掻く。
が、しかし、三成がそれを良しとする訳がなく。
未だ朦朧とする吉継を横抱きにすると、三成は彼を抱えて廊下を歩き始めた。
それに羞恥を感じ、目尻にさっと朱を刷りながらも眩暈から強く抗えない吉継。
驚いた様にこちらに視線をやる下回り達に、彼はただ一人でも目撃者が少なくなる事を祈った。

そのまま吉継の部屋へと到着すると、三成はゆっくりと畳の上に腰を下ろす。
胡座をかいた三成の膝の上に乗せられ、そのまま頭巾、口布越しに額や頬に掌を添えられた。


「何処か痛むか? 熱はあるのか?」
「……何処も痛まぬ、熱も持っておらぬ。言うたであろ、ただの立ちくらみよ。少し休めば良うなろう」
「…そうか」


普段の荒い素行とは掛け離れた優しげな手付きであった。
至近距離で三成から顔を覗き込まれ、吉継は居た堪れず視線を逸らす。
安堵した様に口許に笑みを浮かべた彼に、吉継は思わず目を奪われた故である。

未だ甘やかすかの如く膝の上から下ろしてくれない三成に、吉継は心地好い睡魔に後ろ手を引かれながらも白旗を振った。






























I'm just worried about you
(いい加減分かれ、私は貴様がただ心配なだけだ)
(その心遣いは有り難いが、些か過保護過ぎる処が難点よな)







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