婆沙羅3

□籠の中のてふてふ
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※若干ながら破廉恥注意!





どうしてこうなった。
一体何がこうさせた。















一瞬身体が浮かび上がる。
その刹那背に走った激痛に思わず目を見開く。
背中を布団越しの畳へ強かに打ち、骨が軋む程の痛みに閉口していると、自身を投げ倒した銀髪の男と目が合う。


「―――…みつな、」


吉継が彼の名を呼び終える前に、三成は彼女に覆い被さりその音を奪い去る。
突然口布越しに口吸いを施す男の行動に咄嗟に反応を返せなかった。
虚白に思考を支配され、呆然とする病躯の女を三成は腕に強く掻き抱いた。

突如として部屋を訪れた三成に、吉継は軽く返事を返し彼を通した。
直ぐに敷居を跨ぎ室内に入ってきた彼にどうしたのかと声を掛ける前に、彼女は三成に押し倒されたのだった。
深い夜闇が広がる刻、就寝する直前だった為に敷かれた布団の上で、部屋の主である女は目を見張り眼前の男を凝視した。

闇に紛れ表情のよく窺えない彼に、吉継は先日盟友の言っていた言葉を脳裏に過ぎらせた。
自身の手に入らないものがあるのならば、男なら力ずくで奪うだろう。
そう言っていた元就の警告を軽んじていた事を彼女は今更ながらに深く悔いていた。
三成の想いを聞き入れず、避けようとした結果がこれだ。
幼かった少年は既に一人の男となっていたのだと、悟った時には遅過ぎていた。

布越しに唇を食まれる感触に耐え切れず吉継が逃げを打つ。
漸く正気を取り戻して抵抗すれば、更に男の手は侵攻した。


「やっ…やめよ、三成…!」


懸命に顔を背けようと試みていると、彼女の厚着をした衣服の襟口に手を差し入れ彼は吉継を脱がしに掛かる。
胸元を大きく開かせ、その余す所なく包帯を巻かれた肌に指を這わす。
すると恐慌しながらも彼女から咎めの声と三成の両肩を制すよう細い手が添えられた。
しかしそんな抗いも虚しく、ひ弱な腕は直ぐ様彼の手によって封じられ、藻掻きたくとも不自由な足ではどうする事も出来ない。


「三成っ…やめよ、これ以上はならぬ…! ぬしに、病が…」
「―――刑部、」


唐突に漏れた三成の声に、吉継は思わず戦慄いた。
ぞくり、と背筋を駆け上がる言い知れぬ悪寒を感じ、僅かながらの抵抗さえも途絶えた。
普段よりも格段に声音の低い、男らしい劣情を含んだ声色に彼女は己の耳を疑った。


「何故私を避ける…」
「……みつな、り…」
「これ程までに、狂おしいまでに私は貴様を愛しているというのに」


暗闇で見えなかった三成の表情が、身体を捻った事により背後の月光に浮かび上がる。
障子越しの光が朧気であったが、目の慣れ始めた吉継がそれを垣間見る事は難しいものではなかった。

酷く焦燥した表情だった。
そして今まで見た事もない様な色を含む双眸。
吉継が反射的に躯を硬直させた原因がそれであった。
一度としてない様な男の顔を見せる三成に、彼女は驚愕と恐怖、そして欣然を感じ取っていた。

何よりそれを自身に見せた三成が愛おしかった。
破壊衝動にも似た荒々しい空気は些か恐怖をも胸中に抱かせるが、それでもその感情を向けられているという事実が嬉しい。
業病に蝕まれるだけの存在の自身に、真っ直ぐに愛執を告げる彼に泣きたくなる程の幸福を感じた。

爛れた膚を隠す為に身に着けていた頭巾と口布が、ゆっくりと三成の手によって取り払われる。
最早緩く巻かれた包帯のみになった吉継の口唇に再び彼が食らい付く。
白い布切れを巧みにずらし先程よりも激しい口付けをすれば、彼女はただ鼻に抜けた様な呻き声を漏らす外なかった。

きつく閉じられた吉継の瞳から一筋の泪が伝い流れたが、眼前の男に気付かれるより前にそれは彼女の包帯へと吸い込まれていった。






























籠の中のてふてふ
(その手の中に閉じ込められる事を、心の奥底で我はどれ程までに望んでいただろう)
(浅ましいこの身も心も、全てはこの男を想う故だった)






101101.
 

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