刀*語 二本目

□皆まで言わずとも
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鳳左。






「―――好きだ」


そう言われた次の瞬間、右衛門左衛門の動きが止まる。
まるで鳳凰が突然言った言葉の意味を理解出来ていないかの様な反応。
彼の頭上に疑問符が浮かび上がりそうなくらいの様子に、鳳凰はもう一度口を開く。


「おぬしを愛しておるぞ、右衛門左衛門」


しかも、今度はもっと具体的に。
すると今度は理解出来たのか、右衛門左衛門は肩を跳躍させると途端に紅潮する。
折角持っていた湯呑みが手から離れ、そのまま地面へと落ちてしまう。
パリン、という高い音と共に割れてしまったそれにも気が付かない。
動揺する彼を見つつも、鳳凰は呑気に茶屋の娘に詫びなければと心中で独り言ちていた。


「なッ……な、何を…!」
「“突然言い出すんだ”か? 意味などないさ、ただ我が言いたいと思っただけだ」


茹蛸になる右衛門左衛門を傍目に、鳳凰は一人悠長に団子を口にする。
何とも平穏に、さも当たり前の様に言ってのける朱い忍者に右衛門左衛門は言葉を失う。
こんな茶屋のど真ん中で、いきなりその様な事を言われては堪ったものではない。
第一、人目が気になる以前に、情緒がない。


「右衛門左衛門よ、おぬしはどうだ?」
「ど…どうだ、とは、何が……」
「おぬしは我をどう思っているのだ? 我を慕ってくれているのか?」


そう言って顔を覗き込んでくる鳳凰に、右衛門左衛門は逆に閉口してしまう。
微笑を口許に浮かべながら問うてくるその様に目を逸らせば名を呼んでくる為元忍者はほとほと困惑する。
余程目の前の男は自身の口から同じ言葉を聞きたいのだと悟る。


「………私は…」


小さく、漸く聞こえる程度の声量で右衛門左衛門が切り出す。
その応答に鳳凰は期待する様な眼差しで彼を見つめる。
あたかも待ってました、という態で。

暫し口を開いたり閉じたりを繰り返し、右衛門左衛門は言葉を紡ごうと試みる。
しかし何時まで経てど出て来ない次の言葉に、とうとう羞恥心が彼の胸中で勝った。
覗き込む鳳凰の顔を自身の片方の掌で覆い隠す。
鳳凰がそれに不平を零す前に、右衛門左衛門は自棄になった様に早口で答えた。


「ッ…私は、お前と、違わず…!」






























皆まで言わずとも
(……それは、おぬしも我と同じ想いである、と? そう捉えても良いのだな?)
(…否定はしない。だからもう聞くな…!)
(やはりおぬしは愛おしいな)






110326.
 

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