キリリク文

□真庭忍軍枕大戦
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蝙「枕投げやろうぜ」


唐突に、蝙蝠は仁王立ちになって他の頭領達にこう告げる。
それに布団を敷いている途中だった頭領達は驚いて振り返る。
いつもならば聞き流せる様な突拍子もない言葉だが、そうはならなかった理由がそこにはあった。


蝙「みんなでよ、枕投げやろうぜ」


蝙蝠の表情が、異様なまでに真剣だったからだ。




















川「蝙蝠よぉ…」


真摯な顔付きの蝙蝠に対し川獺はやれやれといった風に頭を掻く。


川「お前のその提案には全面的に賛成だぜ。面白そうだしな。でもよ、その前にたかだか枕投げ程度に何でそんな真剣なのかっつー素朴な疑念を聞かせてくれてもいいよな?」

蝙「あん? 分かんねぇのかよ。気に入らないからだっつーの」

白「よだんいなら入に気が何」


不機嫌そうに言葉を返す蝙蝠に対し、普段彼と行動を一緒している二人は怪訝そうにする。
だから何が、と半眼になって再度尋ねる川獺。
その隣で欠伸を噛み殺している白鷺。
彼らに向かって、否正確にはその後ろの一点を蝙蝠は見遣る。
そしてカッと目を見開いて指を指してこう言葉を紡いだ。


蝙「何で右衛門左衛門があんな角っちょで寝てんだっつー話だよ!」

川・白「「は?」」

蝙「しかもその横に何堂々と鳳凰さんが自分の布団敷いてんだ! 不公平だっつーの! そんなモン勝負に勝ったモン勝ちって相場が決まってんだろ!?」


突然何を言い出したかと思えば、と川獺や白鷺だけでなく周りで再び手を動かし始めた他の頭領までも再度停止する。
しかし視線は依然として蝙蝠の指差す方――右衛門左衛門に真っ直ぐ向けられていた。
一方掛け布団を整えていた不忍はというと、あまりの唐突な事に意味が分からない。
当惑に疑問符を頭上に浮かべるが、返ってきたのは蝙蝠からの異様に盛り上がった様な声音だけだった。


蝙「こんなつまんねーの堪えられねぇよ! どうせやるならみんな巻き添えだ!」

白「わう。しら蝠蝙」

川「だな」

蝙「題して『右衛門左衛門の隣で寝れるのは誰だ!? 血を血で洗う仁義なき枕投げ大会』ー!」

左「…………」

川・白「「いえーい!」」

狂「あら、面白そうねぇ。そういう事なら混ざるわよん」

左「なっ……」

蝶「面白そうじゃん。なぁ、鴛鴦」

鴛「ええ」

蜜「有りですよね、寝る前に軽い運動っていうのも」

蟷「まぁ…これも一つの鍛練だと思えば」

喰「ああ、何と素晴らしい遊びなのでしょうか…! いいですね、いいですね、いいですね、いいですね…!」

鳳「待て待て待て待て。おぬし等、何を勝手に盛り上がっておる」


異論無く蝙蝠の言葉に頷く頭領達。
それを見て右衛門左衛門は物凄く頭を抱えたくなった。
いやそもそもそんな下らない事に何故真庭忍軍の頭領達は頷いたのか。
というか何故今更になって全員で雑魚寝なのか。
普段はちゃんとそれぞれが各自の自室で寝ている筈なのに、だ。
全くもって謎である。

右衛門左衛門が激しく困惑していると、不意に鳳凰が不忍の前に出て蝙蝠達に抗議し始める。
あたかも庇う様な位置に立つ彼に対し、言い出した張本人である蝙蝠も負けじと一歩前に出た。


鳳「おかしいではないか。右衛門左衛門はれっきとした我の嫁だぞ? 何を勝手に取り合いをしておるのだ。この男の隣は我だと相場が決まっておろう」

蝙「鳳凰さんよー、もしかして鳥なのは頭の方も同じって訳じゃあねぇよな? 真庭に嫁いだって事ぁ、右衛門左衛門ももう俺等の家族だ、家族が一緒に寝ちゃいけねーのかよ」

鳳「雑魚寝の時点でその条件は満たされているではないか。何故隣で寝る事に固執する必要がある。あと今然り気無く我を鳥頭だとか言ったなおぬし、しばかれたいのか」

蝙「義弟の義姉に対する可愛い頼み事じゃねーか。それくらい聞き入れてくれたっていーんじゃねーの?」

鳳「いい筈無かろう。下心がまる見えだぞ、蝙蝠」

蝙「そんなモンは他の奴らだって鳳凰さんだってみんな同じだっつ――…」






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