キリリク文

□それでいいんだよ、それで。
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蝙蝠視点です。










年に一度来るかどうか分からない時の為にわざわざ対策を練る必要なんざ無いだろ。
今までそう思っていたけれど、前言撤回。
その時になった今は対策しとけば良かったとしみじみと思った。

え、何の対策かって?
何やっても全く眠れねぇ時の対策だっつーの!






























眠れねぇ、マジ眠れねぇ。
おいおい、どうなってんだよ俺様の頭。
いつもは素晴らしいくらいに快眠出来る筈なのに全然眠れねぇ。
それなりに疲れてるにも拘わらず眠れねぇ。
昼寝した覚えも無いっつーのに…!

このまま布団の中で転がってても絶対ぇ眠くならねぇと思うし取り敢えず起きる。
んでもってどうせ暇だから部屋を出て取り敢えず近場の川獺の部屋に向かった。
あの野郎、親友の俺様が不眠に苦しんでるっつーのに一人だけぐっすりすやすやとか許さねぇ。
無理矢理起こして不眠に付き合わせてやる。
別に苦しんでないけど。


「―――…ありゃ?」
「あ?」


普っ通に廊下歩いてたら普っ通に曲がり角で川獺に遭遇した。
はい暇潰し計画終了。


「何だ何だ、何で起きてんだよ」
「いや、なーんか眠れなくてさぁ」
「あ? マジでお前も? 何だよ、不眠強化期間か何かか?」
「だな」


どうやら川獺も寝付けないらしい。
もっと聞けばコイツも眠れねぇから俺様にちょっかい掛けに行く途中だったらしい。
ちょ、おま、マジかよ最悪。
道連れとか超タチ悪いっつーの。
そう言ったらお前には言われたくないって言われた。
正論だと思った。


「…んで、どうするよ」
「どうするっつっても…どうせ眠れねぇんだからどうする事も出来ねぇっつーの」
「んー…二人でダラダラくっちゃべるとか?」
「うわ、つまんねぇー」
「だな」
「だったら道連れ増やした方がよっぽど面白くね?」
「…だな」


俺様の提案に川獺の黒い目がギラリと光った。
真っ暗な廊下の真ん中でもコイツがめっちゃ悪い顔してるのは分かる。
いや本当良い親友持った。
川獺がノリの良いヤツで本当良かった。

てな訳で白鷺起こしに二人でアイツの部屋に向かう。
もうすっかり目が冴えた中での深夜徘徊に逆に楽しくなってきた。
どうやって白鷺を起こす兼ドッキリさせるかでひとしきり盛り上がったあたりで部屋の前。
取り敢えず耳元で絶叫、に相場が決まったからそのまま白鷺の部屋に乗り込んだ。
が。


「……あ、」
「げ」
「れあ?」


マジで空気読め白鷺。
何でお前まで起きてんだ。


「よにのたてっ思とうこ行にしこ起今、よだ何」
「それはこっちの台詞だっつーの」
「んじゃあ、白鷺も寝付けねぇんだ?」
「うお」


障子を開けると丁度紙燭に手を伸ばしてる白鷺が。
灯を点けて川獺の言葉に頷く山吹色はバッチリ開いていた。
つまりは俺等と同じ眠れない組だ。
布団の上であぐらを掻く白鷺を目の前に川獺としゃがみ込む。


「よてくなれ眠然全もてっや何。てっなかうこ行にしこ起ら前おらかたきてえ冴が目に逆」
「あー、やっぱ?」
「何だろなコレ、人に広がるモンなのかね?」
「なぁさ」


よくよく考えてみりゃあ絶対この状況はおかしい。
俺様一人、とか川獺も、ていう一、二人程度の事ならまだ分かる。
だが同じ夜中に同じ状態の野郎が三人なんておかし過ぎる。
十二頭領の四分の一が眠れないなんてよ。

頭捻ってちょっと考えて、ふと川獺と白鷺の顔を見つめる。
すると二人も同じ事を考え付いたのかしっかりと視線が絡まった。
……まさかな。
いやいや流石にそれはないだろ。
そんなお約束ごめんだっつーの。

でもなんか気になったら確かめたくなるのが人の性で。
少しした後三人揃って白鷺の部屋から出て行った。
取り敢えず、居間に行ってみようと。
明かりを持つ事なくゆっくりと廊下を渡った。
ちょっとした気掛かりからそのまま居間へと繋がる戸を開けた、そこには。


「……何だ。おぬし等も起きていたのか」


はいキタお約束ぅぅぅ。

真っ暗の筈の空間にはちゃんと明かりが設けられていて。
誰も居ない筈の居間には何故か俺等三人以外の頭領が集まっていて。
人鳥を膝の上に乗せて座っていた鳳凰さんの呼び掛けに呆然。
マジでおかしいだろ。


「……まさか鳳凰さん等も…?」
「ん、ああ。何をしても全く眠れないのでな。こうして続々と起きてきた訳だが」
「…………」
「ろだいしかお、やい」
「そう言われても眠れぬものは仕方なかろう」


大して困った風もなく鳳凰さんは答える。
他の居間に居る奴等も各々茶ぁ飲んだり紫煙吸ったりと好き放題。
…何つー奔放な。
人の事言うつもりは更々ねぇが……これは言わなきゃ駄目だろ。
もうちっと緊張感とか、焦燥感くらいは持てよお前等。


まぁ、コイツ等のこういう気ままな態が、意外と俺様の性に合ってたりする訳だけど。


川獺と白鷺が居間の談話の中へと入っていく。
それに続いて俺も部屋の真ん中に座り込むと、喰鮫が花札を持って提案する。
どうせ眠れないのだから、と。
ノリノリで話に乗れば海亀のジジィと紫煙吸ってた狂犬がこれまたノリノリで便乗してきた。
いきなり始まった遊戯に周りの奴等も野次馬に集まる。

年に一度来るか来ないかの不眠も意外と悪くねぇかも、と。
そう思ったのはここだけの話。






























それでいいんだよ、それで。
(こういうふざけた日常で)
(こういうふざけた奴等でよ)







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