復活連載

□18.紅瞳の少女
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「───スクアーロ…!」


白い部屋に男の震えた声が響く。
ベッドに横たわり温かな鼓動を感じていた少女は、ゆっくりとそちらに視線を移す。
汗ばんで疲弊した表情を、微笑に置き換えてスクアーロはテュールを見やった。


「疲れたぜぇ…」
「スクアーロ、よく頑張った…! 本当に……」
「ゔぉぉい、何でテメェが泣くんだよ」


感激に涙するテュールに、笑って返すスクアーロ。
出産後の身体を休めている彼女の胸の上で、柔らかく小さな命がスヤスヤと眠っていた。

睡眠を邪魔しない様に細心の注意を払いながら、ゆっくりと体躯を起こす。
ベッドの柵に背を預け、腕に赤ん坊を抱き抱えるスクアーロを、テュールは涙を拭いながら見つめていた。
汗で張り付いた銀の短髪を払い、慈しむ様に穏やかな寝顔を眺める。


「───ウーナ、だ」


まるで自分の娘に話し掛ける様に囁く。
口元は笑みを浮かべているのに、そのスクアーロの双眸は哀しげに細められている。
それにテュールは気が付いていたが、敢えて何も言ったりはしなかった。


「Una…“ひとつ”という意味か」
「ああ゙。オレにとってコイツは唯一の存在だから」


つ、と優しくスクアーロの指が白くまろい頬を撫でる。
それでも赤ん坊の起きる気配はない。
少女が言葉を続ける。


「オレにとって一番近くて、一番大切で、一番愛せる存在」
「…………」
「オレにはコイツしか居ない。コイツ一人しか居ないんだ」
「……そうか」


微苦笑を浮かべつつ、テュールはスクアーロに頷いてみせる。
きっと彼も分かっているのだろう。
スクアーロが、幼いながらにして一人の母親になってしまった事を。

ウーナと名付けられた赤ん坊の実の父親が、彼女等の側には居なくても。
強く逞しく生きていくのだと、スクアーロは自分自身に誓っているのだ。
唯一愛していた人との子を、命を懸けて守るのだと。

静寂が押し寄せる一人部屋の中、赤ん坊を少女と男が見つめる。
その小さな息遣いを聞きながら、微笑むだけの笑みを浮かべたスクアーロは密かに願っていた。


“彼”が、いつかこの娘の名前を呼んでくれる日が来る事を。






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