復活

□0.休憩
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※子供ネタにつき、注意!





じ、っと注がれるあどけない視線。
その紅い瞳には憧憬と羨望が少なからず込められており、少女の心がそれに釘付けになっている事がよく分かる。

車の後頭部座席、その窓越しを一心に見つめる娘に、二人は目配せしながらその様子を窺っていた。
彼等に少女の心を読む事は出来ないが、小さな彼女の大きな目に留まるものが何かくらいは分かる。
スクアーロが振り返ればウーナの目線が戻されるが、彼女の母親はにっこりと笑いながら優しく問い掛けた。


「ちょっと寄って食ってくかぁ? ウーナ、」















「……ママン、」
「ゔん?」
「本当にいいの?」
「丁度小腹が空いたとこだったしなぁ、ずっと車に乗ってるのも疲れるだろぉ。いい休憩になって良かったぜぇ。な゙ぁ、ザンザス」
「……ああ」


日柄の良いカフェテラスに座り、遠慮がちに俯いているウーナをスクアーロが諭す。
その真正面でコーヒーと共に地図と対峙しながら相槌を打つザンザス。
少女の目の前には、カラフルな紙に包まれた甘いクレープが置かれていた。


車の中で見つけたカフェにて売られていたそれをじっと見つめていると、カフェに入ろうという誘いがスクアーロからあった。
少女にとって願ってもない申し出だったが、無理を言っているのではないかと彼女は直ぐに断りを入れた。
それを良しとせずに、休憩と表してカフェに入って行く両親に、ウーナは怖ず怖ずとその後を追う形になったのだ。
そして、現状に至る訳である。


読心術があるが故に引っ込み思案でもあるウーナが気を張らない様にと、スクアーロも少女と一緒にクレープを頼んだ。
自分も食べたかったのだと笑顔を浮かべればやっとウーナも小さな口で一口頬張った。
苺を始めとする沢山のフルーツとクリームが包まれたそれを咀嚼すると、可愛らしい笑みを少女は浮かべた。


「…美味いかぁ?」
「……うん」
「そいつぁ良かった」


ウーナがまるで華が咲いたかの様に破顔する。
それに充てられ更に顔を綻ばせるスクアーロもまた、手に持っていたクレープを口にしてその甘さを味わった。
子供が食べ物を幸せそうに食べる姿程嬉しいものはない。
それは地図を見つめていたザンザスにも同じ事が言え、笑顔を浮かべるウーナに密かに欣然としていた。

温かい湯気を立てるコーヒーにザンザスが手を伸ばすと、彼によく似た紅い双眸と目が合う。
はた、と一瞬見つめ合うその中で何を汲み取ったのか、ウーナは殊更にっこりと笑い掛け彼に手を差し出した。


「パパン、一口食べる?」
「……あ?」
「私やママンだけ食べているのは、ちょっと申し訳ないなって」


テーブル越しに精一杯に伸ばす小さな手には、端に小さな食べた跡のあるクレープが握られていて。
幼い少女なりの優しさと気遣いだった事だろう。
しかしザンザスは咄嗟にそう判断する事も出来ずに、驚いて見つめてくる視線を注視した。

それに首を傾げて様子を窺ってくるウーナ。
もしや甘味は嫌いだっただろうかと彼女が思い始める前に、ザンザスは少しだけ身を乗り出した。
控えめな歯型の反対側へと齧り付く。
途端に口内に広がる強い甘さに眩む様な錯覚を覚えるが、丁度良い酸味に幾分か救われ殊勝に咀嚼した。


「……悪くねぇ」


是非もない、と心底思ってウーナに告げる。
しかし少女もその言葉に満足した様で、未だ絶える事なく笑顔のまま再びクレープを口に運ぶ。
その様子を見つめながら喉を上下させ嚥下すると、そのやり取りを見ていたスクアーロが小さく笑う声が聞こえた。

彼女の視線にザンザスも独り言ちる。
随分と娘に対し態度が甘い、と。
これではスクアーロの親馬鹿を嗤ってはいられないだろう。
しかし実際愛おしくて仕方がないのだから、尚更である。

先程取り掛けていたコーヒーカップを手に持つ。
口直しにと一口飲んだが、直ぐにザンザスは思い返した。
確かに、あの一口は悪くなかったと。
たまには甘味も良いかもしれない、ともう一口コーヒーを飲めば、ウーナが鈴の音が鳴る様にころころと笑い声を上げた。






























0.休憩





ザンザスとスクアーロをもっと親バカにし隊。←
101021.
 

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