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□第五話・【闇纏いし聖獣】
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「走って!もっと早く!!」

午前2時。東京は眠らない街とはいえ、この時間帯では裏道を通れば人などどこにもいない。
表通りから遠く聞こえるクラクションの音。
狭い路地に反響する、足音。

もうどれくらい逃げ回っただろう。
走りながら、何とか相手を撒けないかと必死に頭を働かせた。
逃げているのは、高校生くらいの少女が二人だった。
一人は脱色したかのような灰色の髪を肩ほどの長さでボブカットにしていた。
そして一人は、黒いワンピースを身に纏い、ゆるいウェーブのかかった髪をツインテールにしていた。
少女達の他に、黒に近い毛並みの獣のような生物が一匹、そして灰色の髪の少女の腕の中には傷ついた半透明の生物が抱えられていた。
二匹の生物はデジモン。そして二人はそのデジモンのテイマーだった。
半透明のデジモン・・・ラーナモンは、さながら水でできているような外見で、荒く息をしながら少女の腕にしがみついていた。
「もうちょっとがんばってラーナモン、ガブモン、瑠璃ちゃん・・・あと少しで撒けるかもしれない・・・!」
「でも愛花!アイツ、まだ追いかけてくるよ!」
灰色の髪の、愛花と呼ばれた少女は、後を振り返りながらも走ることに集中した。

どうして私達、あんなのに目をつけられたの?
私達が何したって言うの?

「っ・・・きゃあ!!」
愛花が蹴躓き、腕に抱えていたラーナモンと共に前に倒れた。
「愛花!」
瑠璃が振り返り、ガブモンと共に慌てて駆け寄ろうとした。

「鬼ごっこもこれまでだ。」

低い、威圧するような声が瑠璃とガブモンの足を止めた。
追いかけてきた相手が追いついてしまったのだ。
その威圧するような声とは逆に、外見は非常に愛くるしいものだった。
まるで、小さな子猫のような外見。
だが、その双眸は射抜くように鋭く、金色に光っていた。
体は闇夜に溶けるような真っ黒な毛並みに、何もかもを切り裂くような鋭い爪がある。

闇に染まった聖獣、ブラックテイルモンがそこにいた。

成熟期デジモンでありながら小さく可愛らしい外見をしているテイルモンと同様、その体には見かけからは想像もつかない力を秘めているのだ。

「大人しく我らに従えば痛い目も見なかったものを・・・。」
ブラックテイルモンが目を細め、ゆっくりと愛花とラーナモンに近づいた。
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