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□第九話・【天使】
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愛花の灰色の髪がふわりと宙に舞った。

純白の桜の花びらも、愛花の髪と同じ灰となった。
燃え尽きた幹も、緑の芝生の面影もない。

吹く風も生ぬるい。
ラーナモンの透き通った体が愛花を庇うように抱きしめた。

「危ない!離れるのよ!早くっ!」

意味がわからない。

あの人はそんなことするような人じゃないのに・・・


冷たい水の感覚も、今は心地よくも何ともない。

「ジェラシーレイン!!」

天に手を伸ばし、ラーナモンが叫んだ。
激しい雨が辺りを濡らす。火が付いた緑や、木々を素早く消火していく。

「へぇ・・・お前の彼女もテイマーなのか。」

黒い影が愛花を一瞥すると、光の方へゆっくり視線を戻した。

「彼女じゃない。」

タオモンとドウモンに守られるように立っていた。
周りの木々や草花が燃えているのは、タオモンとドウモンが攻撃を全て避け、
受け流した結果だった。

愛花とラーナモンに危害が加えられないように、最小限の動作をし、
相手の動きに注意を払いながら。

そんなことにかまってくれるほど相手が優しくないのは知っている。
何年も自分を付け狙ってくる、あの連中の手先では。

「おまえのせいでこっちは随分迷惑してんだよ。いい加減に、ソレ、とっとと返せよ。」
黒い影が光に詰め寄る。傍にいるケルベロモンも同様に、じりじりと間合いを詰めていった。
雨のせいで視界が良くない。その上、愛花とラーナモンを守りながらの戦い。
光にとっては不利になる要素が多かった。

「主、命令を。」

タオモンが爪を磨ぎ、ケルベロモンを見据えた。

「ドウモン、おまえは愛花達を守れ。タオモンはあいつを・・・」

「御意。」

二つの狐火が一瞬にして散った。
一方はケルベロモンに、もう一方は座り込んでいる愛花の方へ。
雨を裂き、一方の光がケルベロモンの右目を狙った。

「後へ飛べ!!目を狙ってくるぞ!」

黒い影・・・北条一弥はケルベロモンに命じ、身を退いた。
ケルベロモンが鋼鉄の体を俊敏に退き、後へ飛び退く。

「遅い。」

タオモンが瞬時にケルベロモンの背後に回り、左腕の袖から呪符を出し、
そのままケルベロモンに貼り付けた。

「っ・・・・!!このキツネ・・・・っ・・・・!!」

身動きが取れなくなったケルベロモンの首元に、タオモンの鋭利な刃が付きつけられた。
タオモンは躊躇することなく、手を振りかざす。

「くそ・・・!ケルベロモン!!」

「やれ!タオモン!!」

一瞬にして勝負は着くはずだった。
降り注ぐ雨の音が、血も涙も、全て洗い流すはずだった。

タオモンが手を下ろそうとした瞬間。



「やめてください!」
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