ひより3

□見えない
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3歩歩いて、立ち止まる。そのままぐわんと上を見上げる。急にせまってくるかのようなおおきすぎる夜の空。私はべつにそれが嫌いじゃない。

「はあ…」

両手をつっこんでいたコートのポケットから手をだしてはあ、と白い息をはく。なんだかそれだけでこの地球上で生きているとかんじさせられた。なんでだろ。

「……」

私、生きてるのかな。一人でにぽつんと思ってしまった。携帯をみればいつもみる待受画面。さきほど好きな彼に送った、告白メール。唐突すぎてなんだかあせるような気持ちが波のようにおしよせてはひいていた。いまさらだけどはずかしい。穴があったらはいりたい。てゆうか死にたい。もう一度はあ、と息をはく。また、白い息。ああ、もう冬なんだなあ。とかばかなことばっかり。なんだろ、なんでこんなに冷静なんだ私は。いや、冷静じゃないけどさ。やっぱりはずかしいし死にたい気持ちでいっぱいだけどさ。でも、彼の気持ちが私に向くなんて考えられない。第一彼には好きな人がいる。と思う。うん、じゃあなんで私は告白をしたんだ。玉砕覚悟?なんだか響きが嫌だなあ。

ブルルルルル

コートのポケットの中で主張するかのように携帯が震えた。うわ、メールじゃん。え、だれから?もしかして?携帯を開く。『新着メール1件あり』。私は息をおおきくすう。はく。白い息。親指を動かしてメールを開く。…やっぱりそこには。

「きちゃった…」

あけるの嫌だなあ。だいたいわかってるよ。『好きな人がいるからごめん。でも気持ちは嬉しかったよ、ありがとう。』みたいな感じでしょ?彼は優しいからさ。そしてそれに私は、『ううんこちらこそ。いきなりでほんとうにごめんね!でも私もそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。これからも仲良くしてください。』なんて、私らしくもない謙虚なメールを送る。なんてかわいそうな私。先の見える未来を私は今、見ていた。

「…あけよ」

ぽちっ。パッとひらくメール画面。そこに書かれていた、1文だけの文章。『会いたい、好き。』。私は目を見開く。息が数秒間だけとまる。…え、ちょっとまってよ。え、なに、なに。なんで好きとかいわれてるわけ?なんで会いたいとかいわれてるわけ?…あ、きっとまちがえたんだな。私じゃなくて他の子に届くはずのメールが私にきたんだな。うん、そうだ。きっと、そう。そうに決まってる。だから私は震える指でボタンをおした。『送る相手、まちがってない?…ですか?』。送信ボタンをおす。送信完了。すると、急に聞き慣れない着信メロディが私の後ろで鳴り響いた。体が硬直する。え、今私メール送ったばっかだよね。なんでタイミングよく後ろからなるわけ?あ、そっかただのタイミングの一致だ。べつに深い意味なんてないんだ。ただの、タイミングの一致、だ。

それでも。

今、私をだきしめるこの体温はすくなからずの期待で彼のもの、だった。頬に生温かいものがながれる。ああ、生きてるな、私。


それでもこの地球上で生きる私に見える未来なんてない










090106



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