ひより3
□五月雨
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「五月病ってさあ、」
そういって隣に座る彼女は自分の見ていた携帯から目を僕に向けて笑った。放課後の屋上に一陣の風が吹く。
「無気力になる月だよね」
「…いきなりどうしたの?」
なんとなく、ぱちんと携帯を閉じた彼女は背中をのばしながらつぶやく。なぜいきなりそういったのは彼女が五月病にかかったからだと思った。
「こんなにやる気ないのはひさしぶりだよ。さすが五月病。あなどれん」
ため息をこぼすと隣からグーで右腕を殴られた。地味に痛い。とりあえず僕もやりかえしにかかり彼女の左腕を軽くグーで殴る。すると突然彼女が小さく悲鳴をあげた。
「ひ、ひど…!暴力反対!」
「あのね。それそっくりそのまま君にかえしてもいい?」
びゅう、とまた風が通りぬけた。そのせいで乱れた髪を手で戻すと、隣からいきなりこちらに腕を伸ばされた。そしてそのままそれは僕の頭へと移動する。
「ぐしゃぐしゃぐしゃ!」
「うわっ!」
せっかく戻した髪を今度は彼女にぐしゃぐしゃにされた。てゆうか、ぐしゃぐしゃぐしゃって…小学生か。
「やめてよ馬鹿!」
「妹子って女の子みたーい」
反応とか顔とか。って、全然うれしくないんだけど。僕男なんだけど。いいかげん怒るよ?
「怒らんといてー」
「ねえ怒るよ。怒るからね」
「ノンノン。怒っちゃだめだめ」
しわ増えるよー?と言われて眉間をつつかれた。しわって僕まだ若いんだけど。
「うふふー増えろー」
「最低」
ぬはーと彼女はねっころがった。僕もその隣にねっころがる。見えるのはどこまでも広い真っ青な青。青。青。ずっと見てたらなんだか憂鬱になりそうなくらいの青色の空。ふいに隣から小さく鼻をすする声が聞こえた。
「ねえ、妹子」
五月ってつらいね。とつぶやいた彼女の手を、僕は黙って握った。
090513