物語置き場

□この空の果てまで
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ぼんやり外を見ると、窓から見えるのは濃紺一色。

夜の闇とはまた別の色、深みがありながらも澄んだ黒。

外気…存在するならばだが…と遮断された船の中。

…これが酸素のない世界なのか。

脳内は静かに告げた。



     この空の果てまで



「大丈夫かの?」

肩をたたかれふと現状を思い出す。

目の前を見ると、いつものように彼は笑って立っていた。

自分を宇宙という名の未知なる広大な空間に引き入れた張本人。

決して不幸ではなかった生活に転換点を与えてくれた男。

誰も考えることのなかった世界に行こう。

降伏でも抵抗でもなく、調和の道を選ぼう。

当たり前のように彼はそう言った。

そのあっけらかんとした、能天気でポジティブな調子の言葉を聞けば。

…誰がその言葉を不可能だと笑うことができるだろうか?


「辛いことがあったら、全部わしに話すといいぜよ〜?」

目の前の人物は終始アッハッハッハと笑い続けている。

癪に障ったので、小さく毒を吐いてみた。

「それなら言わせてもらうが、おんしのせいで辛い」

「アッハッハッ…ショックじゃの〜」

嘘をついたわけではない。

実際、この選択が正しいのかを知るのは今から。


彼に出会わなければ宇宙に飛び込むことはなかった。

彼に誘われなければ外の世界をこの目で見ることすらなかったかもしれない。

どんな形であれ、彼には大きく感謝している。

ただそれを口に出して言うのは少し恥ずかしいから言ってはやらない。


今から何が起きるか、そんなことは誰にもわからない。

きっと信じられないことばかりだ。

怒りに震えることも悲しみ溢れることもあるだろう。

けれどそれと同じくらい、嬉しいことや楽しいこともあるはず。

そういった出来事に出会えることはある意味怖く、同時に期待もしていた。

何も知らずに泣いていた頃とは違う自分になった。

大切なものも掴み取れるはず。


私は、今日大空へ飛ぶ。
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