物語置き場

□生への疑問、生への救世
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売店のパンを頬張りながら歩く。

足が向いていた先、屋上には先客があった。

「…あんたか」

溜息ひとつ。

亮子は呆れてそこに歩き出す。

「よう亮子。サボりか?」

目前で浅月が笑みを浮かべて呟いた。

「アホか」

一発殴ると相手は「だっ」と唸る。

「なんだよ。何か間違ってたか」

「今は昼休みだアホ!」



     生への疑問、生への救世



両者しばしの無言。

亮子は続けてパンを口に含み、浅月はポケットをまさぐりながら歩き回っている。

しばらくして遊び道具を見つけたのか彼は立ち止まった。

サイコロを取り出し、手の上で転がしながら浅月は呟く。

「…救いってなんなんだろうな」

それは現状とはまったく関係ないようにも思える言葉だった。

聞く亮子は驚いて前方を見る。

「唐突にどうしたのさ?」

続いてトランプをシャッフルしだした幼馴染に視線を向ける。

「あんたらしくない言葉だね。救いなんて信じてないんだろ」

「信じてないからこそだっての」

彷徨わせていた右手が今度はナイフを掴んだ。

「全部清隆の罠で俺達は踊らされてるだけ、だろ?」

随分な言い草ではあるが亮子は頷く。

身に覚えがないわけではない。

「で、具体的にわからねぇから人ってのは救いに縋るんじゃねーの」

こちらには否定も肯定もできず、亮子は思いついた言葉を発した。

「…あんたにしては正論だよ」

「ほっとけ」

胸に手を当てながら語る浅月。

視線の先には青空がある。

しかし彼はその風景を見ながらも、別のことを考えているようにも見えた。

つられて自分の胸にも手を当てる。

本来存在するはずの位置に骨は一本ない。

それが『呪われた子』を表す証。

「鳴海弟は…俺達の救いなのか?」

「それを言っちゃおしまいじゃないか」

隣に立って亮子も空を仰ぐ。

「一応あれでも誰も死なない道を探してるんだろ?」

「死なないことは救いだと思うか?」

浅月の顔が上がる。

「いっそ俺達全部消えちまった方が…いだっ」

言葉を止めたのは張り手だった。

「仮にそういう宿命だったとしても、あたしは生きたい。あたしは人間だからだ」

目を見開く相手を前に亮子は付け足す。

「教えてくれたのはあんただろうが」


慰めあって、馴れ合うことはできなくても、意志を貫くことならできる。

そう教えてくれたのは。
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