物語置き場

□消えない『運命』
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勝つにせよ負けるにせよ、世界は変わる。

「たとえ私が消えても…」


『運命』を背負うにはあまりにも幼い少年を残し、仲間たちは散り散りに。



     消えない『運命』



「世界を救う、なんて大層なもんじゃないのよ」

彼女は鼻歌を歌いながらあちこちに手をかけている。

「重く考えるから駄目。カイルも馬鹿ね〜」

その言葉は独り言にも近い。

「他人のためなんて考えるから重いのよ。最後には自分のためじゃないの」

机に2人分のコップを置くと、彼女は不敵な笑みで語りかける。

「自分が死ぬか死なないかでしょ?アンタもそう思わない?」

視線の先には黒衣の剣士の姿が。

ここまで聞く立場に回っていた少年は口を開く。

「どちらにしろ僕は死なない。もう死ぬことはない、か」


カイルとリアラが何を語っているかは知らない。

野次馬根性の残り2人の仲間の行方も不明。

他人に首を突っ込まない2人は、なぜか顔をあわせてしまった。

話しているのもただの成り行き。


皆わかっている。

全てが終われば、世界はあるべき姿に戻る。

その時それぞれには「旅をした」という事実が残らないのだ。

「出逢った」という記憶さえもが。

誰もそれを悲観しない。

それが『運命』だからだ。


ジューダスは落ち着いた表情でコップに口をつけ、直後目を見開いた。

「…なんだこれは!」

「あ、引っかかった引っかかった〜」

ニヤニヤ笑いを浮かべて自称犯人はコップを取り上げる。

「人参ジュースよ。美味しかった?」

「まったくもってノーだ!」

まだ咳き込みながらも、ジューダスの顔は固い。

「…こういうことがね」

珍しくいきなり声のトーンを落としたハロルドに顔が向く。

「人間って不思議よ。何気ないことのほうが案外覚えてるもんなの」

これが「何気ない」ことなのか、ジューダスは聞かなかった。

「お茶出したな、それは誰だっけ、って思い出すかもしれない」

ジューダスの手が再びコップに向けられる。

「嫌いなもの食べさせられたなって」

「変なもの、だ。嫌いじゃない」

飛び出した訂正に製作者は背を向けたまま豪快に笑った。

「アタシは絶対この旅を思い出す。そのための手がかりを残す努力は惜しまない」

「…貴様、馬鹿か?」

彼女は振り返って満面の笑みを浮かべて言う。


「天才よ」
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