物語置き場

□人と世界の境界線
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「…で?」



     人と世界の境界線



「で、ってなんだよ。寂しい奴だなァ」

先ほどまで延々と演説を繰り広げていた高杉がつまらなさそうに床に座る。

それに一瞥をくれると陸奥はさっさと荷物をまとめだした。

わかってくれねェ、とため息をついた姿は普段と比べれば幼さも見える。

髪をかき上げると麗しさも感じられる。

確かに黙っていればいいのに。

そう思ったには思ったが、言うとまた調子に乗るので何も言わないことにした。

最近学習したが、上司のかつての友人などと名がついた者は全員…

…その本人も含まれるが、褒めると無駄に調子に乗る傾向がある。

「ちょっとは共感感じねェのか」

「全く」

きっぱりと言い捨ててやると心底がっかりしたようだ。

しかし人を馬鹿にしたような笑いは忘れないところがこの男らしい。

「考えたこと、本当にねェのか?本気で今の幕府に満足してんのか?」

「じゃからさっきからそう言うちょろうが」

何回言わせる気じゃ、と睨むと睨み返された。

勝てないことはわかりきっているのですぐさま目をそらす。

「あの真選組でさえ人によっちゃもうちょっと前向きな意見返してくれるぜ」

「ほう。そっちこそ気が狂ったようじゃな。弁護とは」

「幕府側なのは一緒だけどな…何がお前をそうさせてんだ?」

聞いた高杉だったが、すかさず

「そんなに辰馬に気に入る要素があったか?まだお奨めできる奴はいるぜ」

と加えた。

「わかっちょるなら話は早いじゃろう」

聞いていなかったのかわざと無視したのか、少し噛み合わない会話。

「頭のために生きずして誰のために生きろっちゅうんじゃ」

さらっと言ってやった。


…これは恋愛感情などというものではないのだ。

生きる意味を与えてくれた、どちらかといえば親に対する感情か。


高杉は何も答えない。

同じ感情を経験しているからこそ反論できないのかもしれない。

「…なァ、陸奥」

「気安く人の名前を呼ぶな」

すかさず返答してやると掠れた笑い声があがった。


「俺ァ今、ちゃんと世界を恨んでるか?」


ターミナル近辺の大使館がこの日、派手な音とともに1つ消滅した。
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