突然放り出された異世界。
大切な人は大きな傷を負い、いつ目覚めるかわからない眠りの中。
真赤に染まった自分の手。今では乾いて茶色く変色してきているが、落ちて着いてくると段々と自分の置かれている状況を思い知らされることとなる。
治療を終えたクラウドと面会を許され、バッツは縋る様に彼の手を握った。冷たい手。何度呼びかけても瞳は開かれない。
どうしていいのかわからない。どうしたら良いのか、何をしたらクラウドは目を覚ましてくれるのだろうか?グルグルと頭の中を幾つもの言葉が通り過ぎては消えて行く。
バッツは病室の簡易椅子に腰かけ、目を覚まさないクラウド手を握り続けた。時折髪を撫で、名を呼ぶ。
誰かがクラウドに触れようとする度、彼は全力でソレを阻止しようとした。唯一、彼等をこの場所に連れてきた黒髪の男を除き。
「食べろ」
差し出された物を受け取り、バッツはそれを口に含む。乾いたそれは、甘いようなしょっぱい様な。その時は何かわからなかったが、それが後に携帯栄養食品だと知る。
それは口の中の水分を奪っていく。味も気にせずぼそぼそと食べていると水の入った容器を差し出され、受け取り一気に流し込む。
「クラウドとは‥とあるミッションの時に出会った。」
雪山でのことだ…そう言って、クラウドの話しを続ける男の顔はとても優しく、バッツは男の話しにだけは耳を傾けた。
男は名前をツォンと名乗った。神羅と言う、クラウドが働いていた会社のタークスという部署の人間なのだと言う。疲れた身体は直ぐに情報を受け入れようとはしない。差し出された食べ物を全て平らげ、バッツは眠るクラウドの頬を撫でる。
「名前を教えてくれないか?」
ツォンはバッツを極力刺激しないように話しかけた。
「俺はバッツ。バッツ・クラウザー。」
「バッツか。」
バッツは知らない。実はこの部屋に訪れた者達のほとんどが、ソルジャーで在ったことを。話しをする限り、おそらく。ソルジャーと言う存在すら知らないだろう。
ツォンはバッツの肩に手を置く。そうしてゆっくりと口を開いた。
「バッツ。神羅で、働かないか?」
***** ****
お世辞を抜きにしたとしてもバッツの戦闘能力は高かった。並大抵のソルジャーでは彼に適わず、とあるソルジャー2ndが戦いを挑んで敗れた。噂が噂を呼び何時しか彼は『タークスの鬼人』と呼ばれる様になる。その任務のほとんどが暴走したソルジャーの始末と、人材スカウト。
バッツは素姓の知れない者。どこの出身かもわからない彼を、ツォンは受け入れた。そうしてレノも彼を「新人」と呼び、バッツも初めこそ警戒をしていた物の、時が経つに連れ一部の者を受け入れて行った。
一番驚いたのはあのルーファウスがバッツと交流を深めていたことだ。何時かの任務でバッツをルーファウスの護衛として付けたことがあったが、その時からの付き合いらしい。
ツォンがバッツを受け入れたのには幾つかの要因がある。
一つは神羅の戦力となる為。そして、とある約束の為でもあった。
タークス用の制服を身にまとい、定時になると帰ってクラウドの眠る病院に行くバッツを見送りながら、ツォンは先日譲り受けた主任の席に着く。
クラウドは目を覚まさない。バッツは彼の目覚めを待っている。あの時から既に5年と言う月日が流れた。
時は流れる。先日ニブルヘイムの研究所からサンプルが逃走したと言う。
タークスにもサンプルの排除命令が下された。生憎と他の仕事も立て込んでいたので、直ぐには動かなくて済みそうだが‥。
「…ザックス」
黒髪のソルジャーを思いツォンは瞳を閉じる。
あの場所で本当はザックスも助けようと思っていた。だが、直ぐに科研の者が現れて、傷を負っていたザックスを連れて行ってしまう。そのまま彼は行方知れず。
ツォンが助けられたのはザックスの親友だという一般兵と、不思議な服装をした青年だった。
あの時のことをツォンは今でも覚えている。暴走したセフィロス。ザックスは傷を負い、クラウドもセフィロスを倒したものの深い傷を負ってしまう。
血を流し倒れるクラウド。その周囲に不思議な色をした光が集まり、そこから現れたのがバッツだった。
「お前は何者だ?」
風の様に走り去る青年を見送ると、ツォンはケータイ電話を開いた。
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