先日。クラウドの身体にソルジャー施術が施された。眠り続ける要因の一つに、身体の損傷が上げられたからだ。ソルジャー施術を施し、肉体を強化すれば良いのではないかと言う。それはほとんど賭けに近いものだったが、医師曰くは成功したらしい。宝条は実験データを取るとゴネていたが、バッツが眉間に刃を当てると悔しそうに文句を呟きながら帰って行った。

「クラウド‥目、覚ますかな?」
「…‥‥さあ?」

病院の屋上。白い煙がフワフワと漂う。バッツが手に持つのは煙草。この世界にやって来て、レノに教えてもらった物の一つだ。
何時もは共にいるはずのレノも今はこの病院で治療を受けている。先日、ザックス達と戦った傷がいまだ癒えていないらしい。

「声、聞きたいなぁ‥」
「…‥聞けるさ。」
「そっかなぁ‥」

苦笑しつつバッツは空を見上げる。あの時、神羅ビルでザックスと戦った時の事を思い出す。あの場には、懐かしい顔があった。
かつて異世界で共に旅した、大事な友達。悲しそうな瞳をしていた。自分の行動は酷く彼を傷つけただろう。それでも、それでも‥。

バッツは煙草を壁に押し付けて消すと、クルリっと踵を返し元来た病室へと戻っていく。今日は休日だから一日病院でクラウドと過ごす。レノも隣の部屋だから時折遊びに来るが、出来るだけクラウドと二人きりでいたかった。
背後からルードもついてくる気配がしたが構わず階段を降りて行く。廊下に響く靴の音。手前の部屋。レノのいる部屋でルードは立ち止まり、バッツはクラウドの病室の前に立つ。

カードを通す。シュンっと音をたて自動で開いた扉。何時もと同じ。クラウドが真白なベッドの上で眠っている。近付いて、ベッドに腰掛けて手を握る。
ハニーブロンドの髪を撫で、一定の音を立てる無機質な音を聞きながら額にキスを落とす。

「…クラウド。ただいま。」

名前を呼ぶ。返事はない。何時もと同じ。同じことを繰り返す。
それでも良い。一緒にいられるなら、こうして共にあることが出来るなら。

だが、バッツがクラウドの名前を呼んだ瞬間。僅かに機械の音がブレた。

ずっと閉じたままだった瞼が震える。

「…クラウド?」

バッツはクラウドの手を握り、名を呼ぶ。
見間違いかも知れない。それでも、どうしても期待してしまう。
眠ったままの彼を見守り5年。決して短くはない。だが、一人で生きるには長い時間。

「クラウド‥?」

何度も夢に見た。彼が、目を覚ます夢だ。

ゆっくりと瞼が上がっていく。まるで、雪の下で眠っていた蕾が花開く時の様に。
碧い瞳。バッツがかつて異世界で出会った時のような、青と緑が不思議な光を取り込み、碧となってバッツを映す。

「―‥ばっ‥つ?」

カサカサに渇いた唇がバッツの名を呼ぶ。それは酷く困惑したような、それでいて嬉しそうな声音。
声が聞こえた。懐かしくて愛おしい。ずっと聞きたかった声。

「あぁ‥ああ、そうだよ。おはようクラウド。」
「…うん」

今まで忘れていた優しい笑顔。瞳が潤む。泣いたらクラウドの姿が揺れてしまうから我慢した。
バッツの腕がクラウドの背に回り、以前より細く感じる体を包み込む。

「クラウド」

その温もり。ずっと求めていた愛しい人の体温。

「クラウド」
「…うん。バッツが、いるんだ‥」

クラウドの瞳から透明な雫が溢れる。それを指で掬ってやりながら、乾いた唇に自分の唇重ねた。
手が震えた。抱きしめる腕の力を押さえることが出来なくて、このままつぶしてしまう気さえした。腕の中でクラウドが「苦しい」と小さく呟く。それでも離す事が出来ない。
腕の中に在る存在が、自分を記憶している。

目を覚まして自分の存在を忘れられていたらどうしよう。その要因は幾らでもあった。しかし、クラウドはバッツの名を呼んだ。ずっとバッツを苛んでいた重石が一つ砕ける。

「クラウド」

夢でない証拠にと、クラウドはバッツの頬に触れるだけの優しいキスを落とす。
見つめた瞳。変わらない美しさ。大好きな色。






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