少しずつ、記憶と違っていく

ズレが生じてきた

良い方向に向かっているのか
それとも良い方に向かっているのか


「大丈夫だって!」


不安になるとそこにある笑顔


守りたい人達がいる
例え憎まれても 罪を背負おうとも

一緒に歩いてくれる人がいるから



『黒白』



ニブルヘイムでの一件があってから、ザックスはフリオニールとジタンの口から異世界での出来事を語られた。
神々の闘争。二柱の神、コスモスとカオス。
コスモスの元に集った仲間達。クラウドとバッツも共に戦う戦士であり、その中でも二人が深い仲であったこと。コスモスが倒れ、カオスを倒し。齎された平和な世界と、其々が帰るべき場所がありそれは今いる世界ではなかったこと。

「…クラウドは、セフィロスと戦っていたのか。」

ザックスは己の手にあるバスターソードを見つめる。傷だらけだが、欠けることもなくキラリと光る刃。大切な人から預かったそれと同じものをクラウドが持っていた。

戦いの前は手入れをしながら、祈るようにバスターソードに触れていたと言う。


クラウドは何を思い、どんな想いを託されてこのバスターソードを握っていたのか?

この剣をザックスが手離すと言うことは、それなりの事態が起こったのだろう。
隣りに控えるエアリスの表情を伺えば、俯いたまま瞳を伏せている。


「クラウドはさ、バッツと一緒にいる時は笑ってたんだ。」
「クラウドは笑うだろう?」

ジタンの言葉にザックスが首を傾げる。
ザックスと共に居た時だって、任務の時さえ外せばクラウドは笑っていた。初めてであった時にも笑っていたのだ。

「困ったように笑うことはあったが、心からの笑顔…と言うのは、バッツだけが引き出せた。」

フリオニールは膝の合間に顔を伏せて呟く。

「他の仲間に見せる笑顔はどこか困ったようで、クラウドの笑顔を見たのは、バッツと一緒に居た時だけだ。」

花の様に笑うのだと思った。
二人で肩を寄せ合い、バッツが一方的に話しているのかと思ったらクラウドも楽しそうに笑っている。
蒼い瞳が、桃色に色付いた頬が。バッツの姿を映して花開く。子供の様な、何時もの硬い表情を崩してコロコロと笑うのだ。

「一番一緒にいる時間が長かった筈の俺や、ティーダにセシル。他の誰にもあんな笑顔見せなかった。」
「俺もだよ。バッツにコツを聞いたこともあるんだけどさ、コツなんていらない。何て、バッツにも笑って返されちゃうんだからな。」

フリオニールが拗ねた様に、ジタンが困ったように仕草をする。


記憶の中の少年は、任務先の雪山で出会った時からザックスへと笑ってくれていた。同僚と揉めて肩を怒らせて壁を殴って、ぶちぶちと文句を溢していても、ザックスが声をかければ笑って振り向いてくれた。

「俺が…、アイツの笑顔壊しちゃったのかな?」

シンと静まり返る空気。誰も、何も話すことが出来ない。
何が起きたのか?そして、これからどんな出来事が待ち受けているのか。

ただ、わかることは…


「俺達は誰一人、欠けてはいけないってことだ。」


ザックスの瞳は真っ直ぐな光りを宿している。意志が強く、一度決めたことは決して揺るがさない。

その瞳は光りの戦士。ウォーリア・オブ・ライトに似ていた。



** ** ***


「ここからは、もう記憶もあやふやなんだ。」
「そっか。じゃあ、これからが本番だな!」

二人で大木の下。空を覆うのは宝石のような星。互いの手の温もりが『今』を実感させる唯一の繋がり。

少しずつ薄れてきた思い出。
かつての自分を蝕んでいた忌まわしい、雨の日の記憶。
ザックスに庇われ、ザックスを失い。ザックスを忘れた日のこと。

「俺さ、誰がしてくれたかわからないけど、クラウドと一緒に居られて本当に良かった。」
「それは俺のセリフだろう?」
「だって、クラウド前は雨が苦手だって言ってただろう?」

雨の日は失うことを思い出させるから‥

「でも、今は雨の日も怖くない。違うか?」
「…まぁ、以前よりは。」
「そしたらクラウドは雨の日でも俺と一緒に笑ってくれる!」

バッツが立ち上がり両手を空に向ける。
クラウドはその姿を視線で追い、自分も立ち上がるとバッツと同じ様に両手を空に掲げた。

「ありがとうー!」
「…ありがとう?」
「俺をここに連れて来てくれてー!!」
「バッツ。」

誰かにお礼を言いたかった。腹の底から声を出して、叫ばずにはいられなかった。涙が溢れそうだったけど、それはグッと我慢して。
クラウドへニカリと笑って見せる。

「頑張ろうな!」


二人で手を繋いでもう一度その場に座り込む。



『バッツらしいッス…』



―風に乗って、懐かしい声が聞こえた気がした…





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