青年は空を見上げた。分厚いコンクリートで覆われた空は、何も映しだすことなく、只。そこにあるだけ。昼間だと言うのに陽は差し込まず、人工的な明かりには何年経っても慣れることはない。
手に持った紙袋がガサリっと音をたてる。中には缶詰やらフルーツが入っている。知り合いに頼まれて調達してきた物だが、最近は特に故郷の食事が恋しくなっていた。
銀色の髪に前髪は邪魔にならないように短く切り込み、後ろ髪を一本にしばり。健康的に焼けた肌にスラリと伸びた四肢。無駄のない筋肉。瞳の色は金に近い茶。整った容姿に、今時稀に見る好青年と近所でも評判の彼、フリオニールはハァっと溜息を吐く。
この世界にやって来て早5年。何故、自分がこの世界にやって来たのかもわからぬまま、時が過ぎて行くだけ。
フリオニールは既に思い出となってしまっているあの日々を思い出し、仲間達と交わした言葉に心が温かくなるのを感じた。
「光は我等と共にある‥ですよね?」
小さくライトさん。っと、呟きながら止めていた足を再び動き出す。
現在フリオニールが住むのは七番街スラム。近所にかつて助けた少女が営む店『セブンスヘブン』があり、フリオニールは今その店の近くの武器屋でバイトをしながら生活している。
生活は決して楽ではないが、知り合いの子供も預かっているし、孤独と言うわけではない。その子も、今は帰って来た父親と共にセブンスヘブンにいるのだが。そして今、フリオニールが向かっているのもセブンスヘブンだ。
先日フリオニールが助けた少女、ティファが所属するアバランチに元ソルジャーだと言う黒髪の男性が加入した。ティファの知り合いだと言うその男が加入してからと言う物の、彼等の活動は活発化している。
星の命を守る為、と言う旗の下。彼等はほぼテロに近い行為を行っていた。
「…犠牲を出す平和。それが、果たして本当に良いことなんだろうか?」
自問自答。フリオニールに答えをくれる物はなく、俯いていた自分に気付くと、彼はフルフルと頭を振り再び前を向き歩きだす。
人通りはほとんどないが暗い路地に一歩踏み入れば何があるかはわからない。
フリオニール程の実力を持っていれば何かあっても直ぐに対処は出来るが、それが女子供であったのならば逃げることは難しいだろう。
「どうせならそう言った、弱い者を守る組織を作れば良い。」
ソレを彼等のリーダーに言うと「綺麗事」で済まされてしまう。そう言った物は根っこから除かねばならないのだと。そう、つまりは神羅カンパニーを排除しようと言うのだ。この世界に来てからフリオニールはずっと考えている。果たしてどちらが正義なのか。悪なのか。
かつての仲間達がいてくれれば。共に悩み、共に答えを探してくれただろう。
だが、彼等はいない。
紙袋の中から赤い実を一つ取り出し齧る。口内に広がる甘みと酸味。
胸に詰まった何かを散らすように、シャクシャクと音を立てながら果実を食べながら歩いていると、人の波が一気に押し寄せてきた。
『星の目覚め』
「フリオニール!」
名を呼ばれ振り返るとそこにはティファと、件の元ソルジャーの男、それに‥
「誰だ?」
「はじめまして。私はエアリス。」
「お、俺はフリオニール。」
ふわりっと微笑む少女にフリオニールは頬が赤らむのを感じた。
スラムに住み始めて数年。こんなに可愛らしい女性、初めて見たかもしれない。
ドキドキと高鳴る心臓、フリオニールはぎこちなく手を差し出す。だが、
「今はそんなことを言ってる場合じゃないの!ザックス、フリオニールにも一緒に来てもらいましょう?」
「ああ!頼んだぜフリオニール!」
「へ?えええ?!」
元ソルジャーの男。ザックスはフリオニールの手を取るとそのまま駆けだす。ティファはエアリスと何かを話しをすると、エアリスと別れザックスとフリオニールを追った。
「自己紹介は落ちついてからだぜフリオニール!」
「ちょっとまてザックス何が有ったんだ?!」
ザックスはフリオニールの言葉に「後で!」とだけ答え、全力で走る。多くの人が一斉に町の外に出ようと駆けて行く。
「せめて説明をしてくれ!」
「とにかく今は走って!」
結局フリオニールはそのまま二人に引きずられる様にプレートを支える支柱迄連れてこられた。そして、その光景に瞳を見開いた。
「なんで、神羅兵がここに?!」
襲ってきた兵士を大きな剣で振り払うと、ザックスが支柱の階段を駆けあがる。ティファもそれに続き、フリオニールもその後を追う。
カンカンっと音を立てながら長い階段を駆け上がる。頭上から聞こえてくる銃声音。
嫌な予感がした。どうしようもない程に、何か大きな事態が起きそうな。
フリオニールは胸元に手を願った。どうか、自分のこの悪い予感が当たりませんように‥と。だが、運命は非常にも彼の願いを打ち崩す。
その日。七番街が落ちた。下に在ったスラムを、そして多くの人々を巻き込んで。
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