取りあえず身体を休めようと瞳を閉じる。
隣のベッドからはザックスの寝息が聞こえてきた。随分と寝付きが良い物だと苦笑しつつ、フリオニールは先程話した中にとある事を付け加えなかったことを思い出す。

クラウドに関する事柄の中で、彼が共に歩くことを選んだ青年がいたこと。
まるで春の風の様に気持ち良く、皆の心に新しい風を吹き込んでくれた存在。
諦めるな、次がある。そう言って彼は何時も笑っていた。
クリスタルを求める旅の途中。仲間達はバラバラに行動を取ることになる。
短い間だがクラウドとティーダ。それにセシルという仲間と共に旅していたフリオニールが別れたクラウドと再会した時。既に、彼がクラウドの隣にいた。

あの関係をなんと表現すれば良いのだろうか?一番近いのは、長年連れ添った夫婦。終わりの時まで共に在ることを誓い在った男女の様に、彼等は共に行動することが多く。誰かが「比翼の鳥」と評したこともあったが、その時フリオニールは首を傾げるだけで特に意味を聞かずにいた。

この世界が本当にクラウドのいた世界であったとして、今。彼はここにいない。
もし、クラウドが彼の世界に共に在ることが出来ているのであれば‥。

「幸せなのかな‥」

ポツリと漏れた言葉。
自然と口元が優しく弧を描く。今でも、鮮明に思い出す事が出来る。
二人が並んで歩く時の雰囲気を。幸せそうな表情を。

少しずつ、意識が眠りの縁へと近付いていく。
懐かしい仲間達の顔がフリオニールに微笑みかける。

『フリオニール』

光の戦士が前を歩く。その後ろを皆で追い、時に追い越し。じゃれあいながら、共に支えながら歩いていく。
太陽の少年が自分の事を「のばら」と呼ぶ。野薔薇‥自分の夢の名だ。



春風の行方


ガタンッ
ガシャ‥ピピピッ‥

いつの間にか熟睡していたらしい。不意に何かが開く音が聞こえた。
それは隣の、エアリスとティファが捕われている筈の部屋からで、フリオニールは起き上がると寝ているザックスを起こし、隣の部屋の壁を叩く。

「エアリス!ティファ!!」
「何かあったのか?!」

ドンドンっと二人がかりで壁を叩く。ザックスならばこの壁さえも破壊しかねない。だが、二人の女性から返って来たのは「大丈夫」という答えと‥。

「…その声、フリオニール‥か?」
「…ッ!!」

フリオニールにとっては懐かしい声。

「待っていて、今そっちも開けるから。」
「お願いできる?」
「レディの頼みとあらば!」

そうしてザックスとフリオニールの捕われていた部屋のロックが開かれる。
勢いよく入ってきたエアリスとティファの姿にホッと息を吐きつつ、フリオニールはその後ろから入って来た少年の姿に瞳を見開いた。

「まさか、フリオがいるなんて。」
「それはこっちのセリフだ。」

金の髪に同じ色の尾。
腰から下げたダガ―がキラリっと光った。

「…久しぶりだ。ジタン。」

ジタンはニッカリと笑みを零すと、腰に手を当て笑う。
変わらないその笑顔。一気に胸を込み上げてきた想いに、フリオニールは思わず瞳の奥が熱くなってきたのを感じる。


「さあ、詳しい話しは脱出してからだ。行こうぜ!」

もう一つの部屋に捕われていたバレットとレッドも救出し、別のフロアに出たところでザックスが異変に気付いた。

「…静かだな。」
「俺が忍びこんだ時にはこんな物だったぜ?」

ジタンの言葉にザックスは嫌な予感がした。神羅ビルのセキュリティーは厳重だ。例え入口の見張りをジタンが眠らせているとはいえ、無数に設置された監視カメラが異常を伝えるだろう。

「嫌な予感がする」
「ザックス!!」

アレをみて、と言ったエアリスの言葉のまま、視線をそちらに向けると‥。

「…死んでる。」

床に倒れピクリっとも動かない兵士の亡骸。
そうしてその兵士の身体から流れる赤い液体は、廊下の上へと続いている。
まるで導くかのように、ゴミ一つ落ちていない廊下に広げられた赤い絨毯。

シンっと静まりかえったその場所は、まるで墓場の様だった。

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