アメィリア


神羅の経営する一群にその場所はあった。現代の医療技術を結集した神羅の上層部のみが入ることを
許された病院。院内に入るにもIDチェックがいるし、いろいろと面倒なのだが警備がしっかりして
いるのは嬉しい。

今ではすっかり定着した制服の着崩し方、上着を腰に巻きつけシャツのボタンは二番目までが開いて
いる。上司からは「お前もか…」と呆れられたが仕方のないことだ。自分は自分なのだから。と言う
か、ネクタイの巻き方は未だにわからないし、シャツはボタンを閉めると苦しい。
静かな病院内をカツカツと靴の音が響く。時折すれ違う病院関係者達は彼を見ると駆け足で去って行
ってしまう。
「俺も有名になったな」
嬉しいやら切ないやら。そんなことを考えているとIDスキャンゲートに到着した。仕組みはよくわ
からないが、カードと言う物をここに通すと扉が開く仕組みになっている。

いくつかのセキュリティーゲートをくぐり抜け、ようやく目的の病室へとたどり着く。
コンコンっと扉をノックして室内へ入ると、相変わらず無機質な部屋の隅、真っ白なシーツの海に広
がる金の髪が目に飛び込んできた。

「昨日ぶり。会いに来たぜ。」

返事は返ってこないと知りながらついつい話しかけてしまう。
彼の眠るベッドの近くに簡易椅子を引きずってきて腰掛ける。
手に巻きつく幾つかのコードからは、彼を生かす為の栄養やらなんやらが注入されるらしい。その為
彼は眠ったままでも生きていられるのだとか。

「相変わらず仕組みはわかんないけどさ」

形を失わない柔らかな髪をくしゃりと撫でる。
反応が返ってこないことが寂しい。でも、いつかきっと返ってくると信じて。

「この間、チョコボ達に会いに行ったんだ。お前の事、あいつ等も心配してたんだぜ?」

彼が昏々と眠り始めて早数年。もう直ぐ、約束の時はやってくる。

「なあ。俺、お前の分まで頑張るからさ…」
ギュッと握りしめた右手。以前よりも細くなってしまった腕、まるで本当の人形になってしまったか
のような愛おしい人。
「また一緒に旅、しような…?」
乾いて少しだけ薬品の香りがする唇にそっとキスを落とし閉じていた窓を開けて新鮮な空気を入れる

陽が暮れて面会の時間が終わる頃までずっと側にいて語りかけた。仕事のことや新しい仲間の事。縛
られるのが嫌だと言ったら世界各地の調査に回されたこと。憤りを感じることも沢山あって、それで
も帰る場所の為に耐えた。

最後に窓を閉じ「行ってくる」と言って退室する。次に会う時はきっと…


病院を出ると同時にポケットにしまっておいたケータイが鳴る。
「もっしもーし!」
何時ものように出ると、コホンっと咳払いの後主任さんの声が聞こえてきた。これもやはり仕組みは
未だにわからない。
『休日にすまない』
「いえいえ〜もう用事は終わったし、何かあったのか?」
『ああ。君とレノに動いてもらうことになった』
「…俺に?」

至っていつも通りを装って話しに聞き入る。
直々の命令。実は、そろそろなのではないかと思っていたが…

『二人で古代種の少女を保護してくれ』

始まりの鐘はとっくに鳴っていた。

「りょっうかい!」

ケータイをポケットにしまって走り出す。
先日壱番魔晄炉が爆破された。その時からずっと待っていた。

「もう、好きにはさせないぜ!」

その胸に金色の羽根の護りを抱き青年はコンクリートの地面を蹴った。




*******


異世界での戦いを終えたバッツは、自分の世界に戻るのだと思っていた。
最後に垣間見た大切な人の悲しそうな笑顔。抱きしめてやることも出来ず、そのことだけがずっと心
に痛みをもたらす。

もっと一緒にいたかった

抱きしめて、傷が癒えるまで一緒に歌を歌って

様々な思い出が脳裏を駆け廻る。そして…

「…ッてぇ!!」

意識の覚醒は突然訪れる。
ドスンっと音を立て、文字通りバッツは堅い地面に落ちた。

「なんだよ!どこだよここは?!」

打った腰をさすりながら立ち上がる。周囲は異様に薬品臭く、薄暗い。
ゆっくりと立ち上がり辺りを見回すが、バッツの記憶の中にその場所を知る情報は一切なく、首を傾
げる。

「…あれ?」

自分は元の世界に帰って来たのではないのか?そんな疑問を抱きつつ、誰かいないかと立ち上がり、
歩き出す。
服装は異世界で着ていた物だ。試しにスコールの武器を出現させてみたところ、すんなりと出来てし
まった。まさか再び異世界に?そんなことを考えながら歩いていると‥。

「クラウド?」

そこには、腹部から真赤な血を流して横たわる愛しい人の姿。
傍らに落ちている長刀は、間違いない。異世界で彼が対峙していた宿敵の物だ。

「クラウド!!」

駆けよりケアルをかける。傷は一気に癒えて行くが、失った血液は戻らない。

「しっかりしろよクラウド!今、助けてやるからな?」

バッツは腰に下げた布袋の中から数種類の薬草を取り出すと、ソレを口内に含む。本当はすり鉢等が
あれば良かったのだが、生憎探す時間も余裕もない。
そうしてバッツはソレを口移しでクラウドの口内へと押し込む。コクリッと小さな音を立ててクラウ
ドの身体へと入っていったクスリ。

幾分か小さく感じる身体を抱きしめる。身体が冷えないように、少しでも側にいることを伝えられる
ように。

「…誰かいるのか?」

聞こえてきた声に振りかえる。そこには、黒い服に身を包んだ長身の。長髪の男が立っていた。



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