「俺と付き合ってください。」
お辞儀しながら伸ばされるその手を、俺は握った。
全身から溢れ出る本気と、何より精一杯気持ちを伝えようとしてくれている彼を、俺は愛しく思った。
坂田銀時。
俺のクラスメイト。
――――…
「高杉、明日の放課後ヒマ?」
学校からの帰り道。
自転車をカラカラと押しながら歩く。
「ああ…。特に用はないけど…。」
明日は金曜日だし、これと言って予定はない。
「ならさ、一緒に映画見に行かない?」
「映画?」
「うん。クラスの奴から映画のチケット貰ってさ。一緒に行けたら…いいな…と…。」
少しうつむき加減に照れる銀時が可愛い。
「…行く。」
そう小さい声で答えると、一気に銀時の顔が綻んだ。
「手、つないでいい…?」
遠慮がちに聞く銀時。
高鳴る鼓動が伝わるかもしれない。
でも、もっと銀時に近づきたい。
震える手を伸ばし、銀時の手に触れる。
銀時は一瞬ビクッとして、すぐにやんわりと手を絡ませてきた。
あぁ…緊張しているのは俺だけじゃない。
時間とはなかなか進んではくれないものだ。
昨日は銀時との約束が楽しみすぎて、夜もなかなか寝れなかった。
今日だって、早く放課後になって欲しいのに、まだ2限目。
こんなに授業がもどかしく感じるのは、高校に入って初めてだ。
銀時の方を見やると、窓際なのをいいことにスヤスヤと寝ていた。
可愛い…。
まさか、銀時とこんな関係になるとは思っていなかった。
入学してから何度か話したことはあるけど、銀時はクラスの人気者で、俺はどっちかというと目立たない方。
真逆だもんな…。
……。
もしかして俺…銀時と釣り合って…ない…?
放課後、先生に提出物を出してから昇降口に行くと、銀時が座って待っていた。
「あ…待たせたな。」
俺が声を掛けると、パッと立ち上がって笑った。
「ううん、全然。じゃあ…行こっか。」
しばらく歩くと、ゆっくりと手を包まれた。
俺はぶわっと顔が熱くなり、下を向いて歩いた。
それから、映画館まで何を話したのか全く覚えていない。
でも、銀時と一緒に居れるのがすごく嬉しくて。
「そういえば、何の映画…?」
劇場に入ってから聞くか俺。
自分の間抜けさに顔が赤くなる。
暗くてよかった。
「あ、あぁ、『スルターヘケルター』ってやつ。よく知らねぇけど、これくれたヤツがスゲーよかったって言ってたから。」
「そうか…。楽しみだな。」
「……。」
「……。」
映画館からの帰り道。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「な、なんか、ほんと、スゲー映画だったな。」
「あ…あぁ。」
内容は最初から最後までほとんどピーがつくようなものだった。
最初から最後まで固まっていた。
よく見ると、チケットにはR15の文字が。
いや、でもあれR15か?
「高杉、ごめんな?」
気が付くと、銀時が申し訳なさそうな顔で俺を見ていた。
「あ、いや別に全然面白かったし!」
は、俺何言ってんだ!
「…もしかして、そうゆうの見たことある…の?」
「はっ!?」
やばいやばい。
ぜってー勘違いされてるぞこれ!
「いや、まぁ、そうだよな。男だし…。」
「や、そうじゃなくて…!」
「高杉。」
すると銀時はいきなり歩きを止め、真剣な面持ちで俺を見た。
「俺は、高杉が好き、だから、ああゆうことも、高杉と、したい。」
途切れ途切れだが、しっかりと発せられた言葉。
意味を理解した瞬間、俺は自転車を倒してしまった。
「あ、いや、別に、今すぐにってわけじゃなくて、その、お互い、そういう気持ちになれたときに、っていうか…。」
当の銀時も相当焦っている様子。
俺は、頭が混乱して、固まることしかできず。
「だから、つまり、高杉を大切にしたいんだ!」
夜空に響き渡る声。
顔を真っ赤にして自分への想いを叫んだ銀時が、なんだか可愛らしく思えた。
「くくっ。」
「へ、な、なに?」
急に笑い出した俺に戸惑う銀時がまたさらに可愛い。
「いや、ありがとう、銀時。」
「お、おう…。」
「俺も銀時を大切にしたい。」
「た、たかす…。」
「ほら、帰っぞ。」
ぼんやりしてる銀時の背中を押すと、再び家に向かって歩き出した。
銀時の想いが嬉しくて、俺は気づかれないように笑った。
「高杉、お前男前だな。」
「だろ?」
to be continue...