『死の集い』
真っ黒な画面に、白く浮かび上がる文字。
暗がりの中、それをじっと見つめる少年。
何度かクリックをすると、無数の叫びが綴られていた。
その言葉には、いずれもこう書いてあった。
『死にたい』
少年はパタン、と画面を閉じるとベットに寝転んだ。
「死にたい…。」
――――…
「朝よ、起きなさい。」
「……。」
うっすらと目を開けると、見慣れた天井が映った。
「今日はあの人の会見があるって言ってたでしょ?世界的に注目を浴びるのよ。だからあなたもさっさと会場に行く準備をしなさい。」
ドアを開けてしゃべり続けるバカ。
もとい、俺の母親。
俺の父親は世界的に注目を浴びているプログラマー。
仕事第一で、父親らしいことは一切してもらった覚えがない。
母親は金さえあればいい人だから、俺のことはほっぽって遊びまわっている女だ。
「聞いてるの?まったく…。いい加減、後継者としての自覚を持ちなさい。」
頭が痛くなる。
「後継者…?ふざけんな。」
「いつまでそうして反抗している気?あんただって、あの人と張り合えるほどの才能を持ってるのよ。」
「……。」
「とにかく、着替えてすぐに下に降りてくるのよ。いいわね、銀時。」
バタン。
銀時と呼ばれた少年は、まだ20歳にも満たない高校生だった。
だが、彼は学校には行っていない。
行くのは面倒だし、なにより学校へ行かずとも学力は人並み以上だから。
そして、殺風景の部屋にあるのは、幾台ものパソコンだけ。
銀時は着替えを済ませ、リビングに降りた。
「あら、めずらしいわね。言うことを聞いてくれるなんて。」
相も変わらず派手な格好をした母親。
香水のキツさにたえきれず、俺は家を出た。
後ろでキーキー喚いている母親なんて気にしない。
部屋に引きこもっている間に外は、少しだけ、寒くなった気がする。
――――…
俺が向かった先は、図書館。
図書館は昔から好きだ。
本が好きだし、このゆったりとした空気も好きだ。
いつものお気に入りの席に座ると、本を開く。
さあ読むぞ、という時に、いきなり隣の席に誰かが座った。
このあたりの席には、いつも誰も座らない。
俺ひとりだった。
だからこそ良かったんだが…。
でもまあ、公共の場なので気にせず本を読み進めようとした。
しかし。
「んー。んーーー!」
唸り始めたぞ、オイ。
しかも、数分おきに何度も唸り声を上げるのだ。
俺は堪らず、そいつに向いて言った。
「すいません、少し静かにしてもらえませんか?」
その声に反応して、そいつは俺を向いた。
紫色の髪。
少し小柄で、ぼろぼろの学ランを着ている。
それから…左目の眼帯。
「あ、すみません…。」
一応反省はしているみたいだったので、気を取り直して、本を開く。
しかし。
「……っ。」
今度は視線を感じる。
俺はため息を吐くと、そいつを見た。
「何?」
すると、少し気恥ずかしそうに言った。
「あの…この問題、教えてください…。」
「あ?」
見ると、そいつは簡単な因数分解に苦戦しているようだった。
しかも、教科書までぼろぼろ。
「お前、中学生か?」
そう聞くと、首を横に振った。
「16だから、高校生…てことになるかな。」
その言い回しに違和感を覚えつつも、俺は仕方なくそいつに教えてやった。
しかしこれがまたバカで。
何回教えても、すぐにつまづく。
というか、基礎が身についてねぇ。
たかが十問解くだけに、何時間もかかり、辺りはすっかり日が暮れていた。
閉館の放送が入ったので、俺たちは外へ出た。
てか俺、結局全然本読めてないんだけど。
「ほんとにありがとう。少しは頭良くなれたよ。」
「ほんとかよ。…まぁ、いいわ。そんじゃ、気ぃつけて帰れよ。」
「あ、そうだ。名前、教えてもらってもいい?俺は晋助っていうんだ。」
「…銀時。18だ。」
「よろしく!」
晋助、という少年は、軽く手を振ると、俺とは反対方向に歩き出した。
「…変なヤツだな。」
会話という会話をしたのは久しぶりで、なんだか少し疲れた。
しかし不思議なことに心は軽やかで、ゆっくりと家路についた。
これが、高杉晋助との、出会い。
to be continue...