「いらっしゃいませー。お客様、会員証はお持ちでしょうか?」

財布からカードを取り出すと、店員に渡す。

「お預かり致します。本日、ご利用時間はどうなさいますか?」


「12時間で。」


ここは家から少し離れたネットカフェ。

図書館を出た後、何となく帰りたくなくてここへ来た。


こうやって狭い個室に寝泊まりするのはめずらしいことではない。

俺はパソコンの電源をつけると横になり、目を閉じた。


俺、生きてる意味…あんのかな。



――――…


目を覚ますと、既に朝の10時を回っていた。

「延長料金…。」

でもまぁ、お金に苦労したことは無い。

会計を済ませると、俺は近くのファミレスに向かった。


「お客様、1名様でしょうか?」

「はい。」

「お好きな席へどうぞ。」

微妙な時間のせいか、客は割と少ない。


一番端の席でいいか、と思い歩いていくと、見覚えのある顔が上を向いて寝ていた。

「こいつ…。」

昨日の…確か晋助。

しかも、ボロボロの学ランのままだ。


俺は、コイツが起きないうちにその場を離れようとした。

しかし。


「あ、銀時だ。」

晋助はゆっくり顔を下げると、俺を見て笑った。

ちっ、起きやがった…。


しかし、その笑顔はまだあどけなくて、俺は仕方なくそいつの向かいに座った。


「おはよう、銀時。何してるの?」

「何って…朝メシ。」

「もう昼だけど。」

「さっき起きたんだよ。」

「ふーん。」


「失礼します。ご注文はお決まりですか?」

ウエイトレスが注文を聞きに来たので、俺はサラダとプレートを頼んだ。

晋助は、朝からステーキを頼んだ。


「お前こそ何でここで寝てたんだよ。」

メニューを脇に置くと、晋助は笑顔で答えた。


「いやー、昨日銀時と別れた後、ここに来てご飯食べたんだけど、その後の記憶がプッツリ。」

「要するに、昨日の夜から寝てたってことか。」

「そういうこと。」

いや、笑顔で言われても。

でも俺もそんなもんだし、言えた立場じゃねぇか。


晋助は、俺より多い量を、俺より早く食べ終わった。

「お前、どんだけ大食いなんだよ。」

「よく言われる。」

こんなほっそい体して…。


するといきなり、頭をわしわし掻き始めた。

「あー!!かいーーーっ!!」

ボサボサの頭から、白い塊が…。


「わーッッ!!てめ、何してんだ!!」

「だってここ最近、お風呂入れてないんだもん!!」

「汚ねぇなっ!!」


はっと振り返ると、店内の人たちが、俺たちをガン見していた。

「おい、出るぞ。」

俺は晋助の分の会計も済ませ、外へと連れ出した。


「あ、ごちそうさま。」

「返す気ゼロかよ。」

「ん?」

「…まあいいわ。とにかく帰って風呂入れ。」

「俺んち風呂ない。」

「はぁ?」


ボロボロの学ランで、ボサボサの頭で、ヨレヨレの教科書抱えたこいつが、何だかひどく可哀そうに思えて、俺は口を開いた。

「俺んち来るか?」


今なら母親はサロンに行っている時間だ。

父親も当然いない。

すると晋助は嬉しそうに笑った。


「ありがと。」

「っ…べ、別に…。ほら、早く来いよ。」

「うん!」


後ろをひょこひょこ着いてくる晋助は、何だかちょっと、可愛く見えた。



to be continue...



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