「おい、何人の部屋勝手に漁ってんだよ。」
晋助を家に連れて来たはいいものの、落ち着きが全くない。
「だって、だって、銀時んちスゲーんだもん。玄関広いし、天井高いし、床は大理石だし!」
「別に凄くなんかねぇよ。ほら、風呂入れよ。」
「はーい。」
案外素直に言うことを聞き、ちゃっちゃかと風呂に入れた。
風呂からも「スゲー!」とか、はしゃぎ声が聞こえてきたが、とりあえず俺はタオルを調達しに行った。
「えーと、確かタオルはこのタンスの中に…あった。」
この家のタオルはいつも真っ白でふかふか。
と言っても、あの母親が洗濯するわけじゃない。
この家に雇われてる使用人たちがやってくれているのだ。
「おーい、タオルここ置いとくからな。」
風呂場に向かって言うと、晋助は嬉しそうに返事をした。
「…ったく。…ん?」
見ると、ボロボロの学ランが綺麗に畳んで床に置いてあった。
あ…。
「おい、お前…着替えは?」
「えー?そんなん持ってないよー?」
やっぱりな…。
仕方がないので、俺の服を用意してやった。
普通のTシャツとジャージだけど。
「いやー、いいお湯でした!」
「そら良かったな。」
スッキリした顔で晋助は俺の部屋に入ってきた。
それにしても…
「ブカブカだな、おい。」
先ほど用意した服は、晋助には大きく、上下サイズが全然合っていない。
「うるせぇよ。」
あ、拗ねた。
ちょっと可愛いなんて思ってしまった。
しかし何を思ったのか、晋助は俺の前に来て、いきなり笑った。
「彼シャツ、みたいだろ?」
「ばっ…!!」
「あはは、銀時顔真っ赤。」
「赤くねぇ!!」
「仕返しだよ。」
クソー!!
おちょくりやがって!!
「おら、制服だ!!」
「うわっ。」
バサッという効果音とともに、制服が晋助の顔に命中。
「ん、洗ってくれたの?」
「相当汚かったぞ。」
「サンキュー。」
晋助は嬉しそうに、俺のベッドにダイブした。
「しかも丁寧に畳んで風呂入るとか、意外と几帳面なんだな、お前。」
それも床の端っこに寄せて置いてあった。
「だって俺なんかの制服で、大理石の床を汚せねぇだろー。」
「…っ。」
無邪気にベッドの上ではしゃぐ晋助。
「…大理石だからなんだよ。あんなの…別に…汚れたってかまわねぇよ…。」
そんな大した家じゃないんだ。
虚しさだけが漂う、こんな空っぽの箱なんて。
「銀時はさ、何で学校行かねぇの?」
「え…?」
「だって、高校生だろ?」
まじまじと俺を見つめる晋助。
「いや、別に家でも勉強はできるし。それにあんなとこつまんねぇよ。」
なんでそんなこと聞くのか不思議に思っていると、急に晋助の顔が険しくなった。
「…贅沢だね、君は。」
「え…。」
「俺は、学校に行ってない。いや、行けないんだ。お金がないから。」
さっきまでの晋助とは別人のようだ。
冷たい目をしている。
「ほんとは家なんてないし、親も、頼る人もいない。」
「じゃあ…どうやって…。」
「なんとか自分で稼いで食いつないでる。毎日生きることに精一杯だよ。」
「で…でも、制服と教科書…。」
「あれはゴミ捨て場にあったやつ。どこの誰の物とも知れないものを、俺が拾った。」
「…。」
「銀時、君の父親は、あの有名なプログラマーの坂田だよね?」
「なんで知って…。」
「この家、テレビで見たことある。坂田さんの取材のときだったかな。それと、優秀なひとり息子がいるって言ってたよ。君だよね?銀時。」
「俺はアイツとは…関係ねぇ。」
すると晋助はため息を吐いて俺から離れた。
「分かんないね。なんでそこまで父親を拒絶するのか。愛情があるかは別として、いくらでも金くれるんだよな?それに父親譲りの才能もある。なら、親を足蹴にしてでものし上がれよ。」
「…お前には分かるわけねぇよ。」
「俺はどんな手を使ってでも這い上がる。俺を捨てた親を見返すために。」
「…!」
「…帰るわ。風呂ありがとな。」
俺の横を通り過ぎて、ドアに向かう。
何も…言えなかった。
to be continue...