「ねえ高杉、来週の火曜日ヒマ?」
「あ?それって何日だよ?」
「9月10日。」
「まあ、特にやることはねぇけど。」
「だったら、2人で出かけようよ。」
「なんでだよ。」
「冷たいィ!」
「はぁ?」
「その日は俺とお前の誕生日の真ん中じゃねぇか。」
「だから?」
「俺と一緒にいてよ。真ん中バースデー!!みたいな?」」
――――…
「たーかーすーぎーくんっ!!待ってたよォ!!」
万事屋のチャイムを鳴らすと、メガネではなく銀時が現れた。
「いつものメガネは?」
「ああ、あいつは家。今日は万事屋の臨時休業日だからな。神楽と定春も一緒だ。」
「臨時休業とかあんのか。」
「まぁ俺の都合。」
「だろうな。」
銀時の横を通り過ぎ、客間のソファに腰かける。
相変わらず殺風景な部屋だな。
「で?何すんだよ。」
「せっかく天気もいいことだし、どっか出掛けね?」
「俺は指名手配犯だぜ?街中うろうろしちゃあ、すぐ見つかっちまう。」
キセルを口から離し、ふぅっと煙を吐く。
「エロいなお前。」
「あ?」
思いっきりしかめっ面をしてやると、銀時は何かひらめいたように立ち上がった。
「そうだ、変装すればいい!!」
――――…
「何?変装道具を貸してほしい?」
「ああ、お前いっつも変装してんだろ?何かいいもん貸せ。」
俺の横に座って、腕を組んでいるのはヅラ。
ちょうど万事屋の前を通りかかったところを、銀時が無理矢理連れ込んだ。
「そんなことを言ってもな。今は手持ちがあまりない。」
「あー。」
「ヅラ子とエリザベスとスッチーとナースとメイドの衣装しか持ち合わせていない。」
「持ってんじゃねーかッッ!!手持ちないとか普段どんだけ持ってんだよッッ!!つかスッチーとか古ィんだよッッ!!CAだよCAッッ!!」
「いやその前になんで女装しか持ってねぇんだよ。」
コイツらといるとバカがうつる。
「はぁ、仕方ねぇ。とりあえずナース服よこせや。」
「ふざけんな。」
――――…
「風が気持ちいーね、晋ちゃん。」
「……。」
体が重い。
結局俺はヅラ子の着物を借りた。
人生の汚点だ。
「歩きにくい。」
「あ、コラ。今は女の子なんだから、そんな着崩しちゃダメ。」
「誰が女の子だコラ。」
「可愛いよ、高杉。化粧もしたし、どっからどう見ても女の子だもの。」
ここが外じゃなかったらぶん殴ってるところだ。
「で、どこ行くんだよ。」
「んー、どっか行きたいとこあるか?」
質問で返すな。
「別にどこでも。」
「銀時と一緒だったらどこでもいい!!みたいな?」
「都合よく解釈してんじゃねーよ。」
うぜえ、と思いため息をつくと、銀時は笑って言った。
「んー、俺は高杉と一緒だったらどこでもいいんだけどな。」
「……。」
俺はその言葉に目を見開いて固まった。
「え、なに、照れちゃった?」
にやにやした銀時に一発見舞ってやると、俺はスタスタと先を歩いた。
「ちょっと待ってよー。」
後ろから銀時が小走りでついてくる。
「ちっ。」
まだこっちに来るな。
俺の心拍数が戻るまでは。
女装はかなり気に食わないが、こうやって銀時とゆっくり街を回れるのは内心とても楽しかった。
クソつまらない映画を見て、女みてぇに万華鏡覗いて、からくり人形で対戦して。
そしてコイツは相変わらず、すげー幸せそうな顔して甘味を味わう。
白夜叉と恐れられた銀時。
無邪気に笑う銀時。
俺は、銀時のすべてが好きだ。
しっかりと握り合うこの手は、絶対に離したりはしない。
「高杉。」
名前を呼ばれ銀時を見上げると、優しい笑顔がおりてくる。
そのまま唇を重ねた。
永遠とも思える一瞬。
「好きだよ。」
「俺も…。」
好きだ。
銀時は唇を離すと、勢いよく俺を引っぱった。
「ほら、帰んぞ。」
夕日が街を照らし、川はキラキラと輝いていた。
「おう。」
口元が綻ぶのを隠すように、俺は下を向いて歩いた。
「来年も一緒にいてくれるか?」
「まあ、気が向いたらな。」
「ツンデレ晋ちゃ…すみません。」
「それより先にテメェの誕生日だろ?」
「え、祝ってくれるんですか?」
「気が向いたらな。」
「向かせてみせる!!」
一緒にいるに決まってんだろ。
バカ天パ。
来年も再来年も10年後も20年後もずっと。
変わらず側にいるよ、銀時の。
「ねぇパー子ォ、この前一緒に街歩いてた娘誰ェー?すっごいキレイだったじゃない?」
「あぁ、あれ?あれは俺の自慢の…」
「ね、この店で働いてもらわない?すっごい美人の男の娘だったのよォー、ママ。」
ごめん高杉、オカマの目はごまかせねぇわ。
END.