ワンピース

□忘れることなき
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【忘れることなき】


「ソラ、私もう無理かも」

甲板でソラと海を眺めていたが、ポツリと洩らした言葉にソラが振り返った。

「なに、どうしたの」

「ローさんって心臓に悪い」

ローさんの名前にソラの眉間に皺が刻まれていく。

「トラファルガー・ロー?ちょっとナギ、アンタなにかされたの!?」

グイッと顔を寄せられて私は一歩下がる。

「別に何かされたというか…そのっ」

「されたのね!!」

「だから、別に怖いことされた訳じゃないし」

「アンタはそう言うけどね!!アイツは「なんの話だ?」」

「ローさん!!」

タイミングが悪いのか、ちょうどローさんがキャスケット、ベポ、ペンギンを連れて甲板に上がってきた。

「出たわね、諸悪の根源」

ローさんの前で仁王立ちするソラ。

「お前にそう言われる理由はないがな」

相手にしていないローさんの態度にソラが鬼の形相になる。

「アンタはそうでも私にはあんのよ!!アンタ、ナギに何かしたでしょ」

「別に何もしてないが…」

「嘘よ!!アンタ、絶対なんかやってるわ。ナギがこんなに震えてるじゃない」

いやいや、震えてないからね。

「ソラ、私は別に何も……………あっ」

朝の事を思い出して体温が上がり、顔が熱くなる。ソラはそんな私を見てさらに目がつり上がる。

「ちょっと今の間は何?「あっ」て言ったわよね。「あっ」て!!ナギの顔が赤いのはなんで!?」

「うるさいバカ女、…バラすぞ」

ソラの大声に耐えきれなくなったローさんがかなり低い声で呟く。あまりの低さに一瞬寒気を感じた。
ソラは毎回ローさんにバラバラにされているせいか、ローさんの能力範囲から逃れようとジリジリ後ろに下がっていくソラ。睨み続けるローさんに耐えきれなくなったのか、船内に入るドアまで近づいたソラは震えながら、

「うぅ〜。覚えてなさいよ、このセクハラ隈男〜!!!」

「あっ、ソラ!?」

捨て台詞を残して船内に逃げて行った。

「放っておけ、ベポ」

ベポが追いかけようとするけどローさんに止められた。彼は私に視線を向けたあと船に寄りかかる。
止められたベポだが、やっぱり気になると言って船内に入っていく。なんて優しい白熊だ。

「ソラは本当にナギ馬鹿だな」

ペンギンの言葉に私は思い当たる節があって甲板に視線を向けた。
けど、私の耳には穏やかな波の音が聞こえる。
その音を聞いて思い出すのは暗い闇の中、私を気づかい続ける声。

「だいじょうぶ…だいじょうぶだよ、ナギ」


「…昔からああなの。理由は分かってるからなんとも言えなくて…」

「理由?」

首を傾げるキャスケットに私は苦笑する。

「…私達、7歳の時に海に流されたんです」

その言葉にペンギンやキャスケットは言葉が出ないのか口を開いた状態で動きを止めていた。ローさんに目を向ければ目を見開いて私を見ている。

「…な、流されたって…」

「……どういう事だ?」

キャスケットは予想以上の事だったらしく言葉を詰まらせている。
けど、ローさんから聞かれると私の中にあるほんの少しの勇気が後押ししてくれる。
彼なら…彼らになら言えるって。
それでも緊張して両手をグッと握りしめる。

「あまりいい話じゃないですけど。……私達の生まれ育った村は双子を忌み嫌う習慣があったんです。双子は災厄を呼ぶ存在なのだと…。村の掟だと産まれて直ぐに2番目の子は村の外に養子に出します。村には“双子”ではなく、初めから“1人”として産まれてきた事にするんです」

「養子って、おいおい…」

「父は村の有力者でそれなりの発言力があったので、私達を双子として一緒にいさせてくれたんです。家の外には出れなかったけど、家族でいられる事が幸せでした。…それでも父が生きてる内はよかったんです。父が病気で死んだ途端、村の人達はそれを私達がいたからだと責めて、樽に積めて海に流したんです」

「……子供を樽にか」

ペンギンの言葉に私はあの人の叫びを思い出す。

『お願い!!あの子達を私から奪わないで!!!ソラ、ナギ!!!』

「私が最後に見たのは、母が止めようと泣き叫ぶ姿でした。樽に詰められた私達は水も食べ物もない状態で流され続けたんです。暗闇で昼も夜も分からない中、ソラは私をずっと励ましてくれたんです。『だいじょうぶ、かならず助かる』って……」

「そそそれでその後どうなったんだよ!?」

キャスケットの慌てようにペンギンが黙っとけと肩を叩いている。ローさんはただ私を見ているだけ。でもその目には続きを言えという雰囲気がある。

「たまたま通りかかった船の船長に助けられて、その船でお世話になってました。そのお陰で、今現在まで生きる事ができてます」

私が言えば、キャスケットは安心したかの様にホッと息をはいた。

「この広い海で船に助けられたなんて、どれ程の確率なんだ」



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