SHORT NOVEL

□L'isle Joyeuse
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L'isle Joyeuse




「最近の輸入開発部は上手くいってる?」
「はい、まぁ昨年よりは上昇傾向は続いてますね、買取注文も増加してますし。」
「そう、なら良かった。でも気を抜いたら駄目だよシン、いくらアメリカの国内総利益が下がって買取が上がっているからってそれがこちらに絶大な実益になるなんて確たる原拠はない訳だし。」
「はいはい、充分承知してます、兄さん。」

シンはボルドーを口に含みながらそう吐き捨てた。
久々に杯を交わす兄弟水入らずの夕食。仕事もプライベートも絶良好でついでに味にも確かな兄が太鼓判を押すこのフランス料理店のフルコースは、確かに感想にできない程美味だった。

が。

「そうかなぁ〜だいたいシンは肝心な所でどっか抜けちゃうからなぁ〜。来週外交コンセルティングでむこうのお偉いさんと会食するらしいじゃない、我が社がいくら甚大な会社で優秀な人材を持っててもそこで失敗して恥さらしちゃうのはお兄ちゃん耐えられないなぁ〜…」
「既に失敗確定なその台詞かなりムカつくんですけど。」

兄弟水入らずの夕食は、結局、今までの人生で一番聞きあきただろう兄であるキラの流暢でしかもかなり胡散臭い口調で全てリードされてしまう。
まぁこの絶品なる饒舌さと神並な社会的気配りのおかげでこの父の会社のトップを任されてしまうのだから文句は言えないのだが、だからといってプライベートなこの場に及んでまでことごとく自分を貶さなくても良いと思う。

はぁ、とシンはこの夜何回目かわからないため息をはいた目の前のキラは相変わらずその持ち前のベビーフェイスでにこやかに笑っている。
別にキラの声をBGMにしてフランス料理なんて食べたくない。

だが。

シンはちらっと横をむいて色彩豊かなスポットライトがあたっているステージを見た。
(なんでよりによってジャズなんだ…?)
その小さなステージで奏でられているのは何故か、ジャズ。
フランス料理店なのに何故か、ジャズ。



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