SHORT NOVEL

□AQUATIC LOVERS
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それ、は冷たく
しかし温かく包んでくれる


それ、は鋭く
しかしむしろこんな俺には最適だ



*‥ AQUATIC LOVERS ‥*



調節された気候はとても穏やかで、しかし少々屋外遊泳プールに入るにはそれは低い。
それでも1人俺は、スイスのレマン湖を模したらしいこのプールに入って歩きも泳ぎもせず、ただサイドに佇んでいた。


ちゃぷり、と水音をたてるとひんやりとした淵源から、波紋が幾重にもなってそして消えていった。肌に触れる微かな水の揺らぎがとても落ち着く。

それを体全体で感じていたくて、唯一人工の空気にふれていた首から上を、一気に水中に沈めた。髪の先から爪の裏までまとわりつく透明のそれがとても心地良く、ついつい足を動かして泳ぎだしてしまう。
瞳を開けると、人工の日光で煌めいた揺らめくアクア色の世界は美しく、また、地に足がついていない、そんな状態のこの人工の水の世界は不安定故に安心する。






戦後のプラント───プラント最高評議会議長ラクス・クラインを筆頭に、未だ混沌としたプラントを収集しているクライン派からかなり偏ったと思われる熱い優遇やら功労金やらを頂戴したイザーク・ジュールは、とりあえず軟禁状態の母共々自宅をプラント郊外の広い屋敷に移して、なんとか母に窮屈な暮らしから脱出させた後すぐに自軍隊統括や議員再編に追われ、そしてやっと一息ついたところで、オーブにちゃっかりいたらしい元同僚兼遠恋中恋人が突然アポ無しで新邸宅にやってきやがった。

確かに元ピンクの妖精(現最強女王)もかなり突拍子も無い事を評議会で口走るが、まぁあれは既に先を見越した確信犯である事は知っている。
しかし、同じくらいもとい、それより上回る天然さをお持ちの我が恋人は、それが天然であるかも自覚していないから厄介だ。

そんな彼は先程まで母エザリアと談笑していたが、いつの間にかその姿が消えていた。
ソファでくつろぐ母に問うと庭に出たと言われ、あぁと合点がいく。新邸宅の中庭には専用プールがある。無自覚天然で無自覚自己中な恋人は、確かあれが好きだった筈だ。






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