SHORT NOVEL
□キャラメルマキアート
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甘く
優しく
口の中に溶け込んで
ほんわりと
しっとりと
体中に染み込んで
空いた心の隙間
埋めてくれる
温かなキャラメルマキアート
ジャズが流れる店の隅
漂うカフェインの匂い
ひとりぽっちで飲む
甘い
優しい
キャラメルマキアート
ねぇ
どうか全てを飲み干す前に
全てがなくなってしまう前に
会いに来て
【キャラメルマキアート】
キャラメルマキアート。
320円のshortは、カフェでいつも注文するお馴染みの一品。
アスランは店内の窓辺のカウンターに座って、一人それを啜っていた。
冬の夜は早い。
もう日が沈んだPM5:00、窓から見える外は徐々にライトアップされ、まだまだ終わらない今日を煌びやかに飾っている。
温かなキャラメルマキアートを啜り、アスランは賑やかな外に集う幾多の恋人達を目で追った。
近くに駅があるこのカフェの前は、待合い場所にもってこいで、今もたくさん相手を待つサラリーマンや学生が時間を気にしてそわそわと立っている。
やっと相手が来ると顔がくしゃっと笑って、どちらとも無く手を絡ませる。
歩く背中は幸せそうで。
まるで全ての事が上手くやっていってるようで。
──でも。
アスランは恋人達を目で追いながら息をついた。
───本当のところなんて二人にしかわからないじゃないか。
そう思った時には、マグカップの中のキャラメルシロップとフォームミルクはエスプレッソに溶け込んでいて、甘い口の中にじわりと苦さが充満する。
アスランは相当歪んだ恋愛思考だなと自嘲しながら、また口をつける。
甘い甘い、優しい味。
なのにどうしてしょっぱく感じてしまうんだろうと考えた時には、既にアスランの瞳から一筋の涙が流れていた。
「ぁ……」
泣きたくないのに。無常にも涙が落ちて、目頭が熱くて、胸が苦しい。
いつも来てくれる彼が来てくれないのが悲しくて。切なくて。
あちらこちらにいる恋人達への僻み感情は、きっと彼に置いて行かれた自分を守りたいから。
───ねぇ、イザーク。
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