SHORT NOVEL

□惚れた方の、負け
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−・−・惚れた方の負け・−・−



「お気に召されました?」

横隣から聞こえてきた声に、イザークは通覧していたショーケースから目を離した。
左に佇んでいる人物は、黒のスーツに包まれた体をピシリと伸ばし、しかし、前で組まれた白い手袋をはめた手や柔らかい笑顔が厳格なイメージを軽くする。
イザークは声をかけてきた男のクラークを上から下まで見、眉を寄せた。
お気に召されましただと?何だそれは。普通、客に一方的にそんな事言わないだろう。それは買えという事買えと。まぁ実際自分の目的はそれなのだが。

イザークがもう1度店員を見ると彼は相変わらずにこにこと笑っている。だから一瞥をくらわせた後、しぶしぶ透明の汚れ1つないケースの中のキラキラと光る宝石の数々を見やる。

「そうだな・・・」

綺麗にアレンジされ置かれているのは、虹色に光を反射して輝いているダイヤモンド達。
こじんまりと纏まられている物、大胆なカットで値頃も人一倍なデザイン性ある物、シンプルながらも凝った造りの精密な物。
澄んだ空気の様な鉱石が臙脂のベルベットに置かれていた。

「リングを、ちょっと知り合いに、な。」
「あ、恋人さんですか?良いですねぇ、今日はイヴですからね。」
「・・・・あぁ、まぁな。」

相変わらず、少々無礼な態度に気を咎めながら、首にまいていた白いマフラーを寛げる。外は寒いが、このブティックには十分に暖房が入れられていて、ほかほかと暑いくらいだ。

「どのような感じの物が宜しいでしょうか。ダイヤモンドは丁度この季節には人気ですよ、クリスマスにはもってこいです。」

クラークはどうやらイザークを目星としたらしく、にっこりと柔らかそうな藍色の髪を揺らして言った。








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