LONG NOVEL

□Secret
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The only thing that matters is the ending.

書きかけの文章。
どんなに情緒ある美文で飾っても、章節に注解を入れて辞典の様な文章を読み易くしたとしても、凄味を利かせた斬新さで読者を唸らせたとしても、はたまた愛の常套文句で脈絡なく綴られた空想文章であっても、ただそれは書きかけで終わっては意味が無い。
そう、全ての文章は書きかけで終わっているのだ。著名で才徳ある作家が綴ったイッヒロマンであっても、フランス小説の系譜である心理小説でも、大ヒットした恋愛映画の原作であっても、書きかけで終わっているのだ。
なんという酷い事だろう。全ては最後にて決まるというのに。

唯一重要なのは終わり方だというのに───

◇◆◇

アスラン・ザラは、こんな辺鄙で不便な田舎町でも、知らない人はいない衆望あるカリスマ作家だった。彼の書くミステリ小説は業界からは絶賛の嵐であり、結末に繰り広げられる大強盗返しに大衆は口を栗の毬の様にあんぐりと開ける事しかできず、それにより彼の多々ある小説はすぐにメディアミックス化され、数年前には数々の文学賞を総ナメにした実績を持っている。大ベストセラーになったデビュー本を発行してからまだ5年はたたず(因みにその本は今月で第35刷になっている)、まだ20代半ばである彼はそれでも一生涯の印税生活は保証済みだし、高額納税者ランキングにはここ毎年ベスト10は当たり前だ。
才能は中身だけでなく外見にも現れていて、要はルックスまでも最優秀賞が頂戴できる彼は、マスメディアからの出演依頼や取材も大量収穫ができるのだが、ここでやっと彼の欠点が発揮される。
彼は、例によって例のごとく、よくいる作家の鑑なのだ。コミュニケーション能力及び社会的適応力が甚だしく欠けているのである。
とりあえず1つ例にすると、まず彼は約束の時間には必ず来ない。良くて2時間後、最悪の場合その日は連絡ナシ。次の日此方から電話をかけると、昨日はずっと寝込けていたと言う。
そう、彼の特技は死んだように1日中愛用のソファーの上で横臥する事。
という事で、結局メディア露出は殆ど無い彼は、活動自体が謎で神秘的な存在として世間で扱われ、それがまた彼のファンを増やす要因にもなっている。
そんな天才的才能と変癖を持つ彼だから、只今こんなニューヨークの僻地にある田舎町の湖畔の近くの別荘で1人ひきこもり状態で暮らしているのであった。
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