SHORT NOVEL

□毒のない曼珠沙華
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窓のむこうに消えた、美しい人。
彼は、誰…?



「キラ?どうしました?」
ニコルがキラの顔を覗きこむ。キラははっとしてニコルに言った。
「あ、あのさ!ニコル碧の瞳の人知ってる!?」
「は?」
あぁ説明がうまくない。
「え―っと、辻君さん!!赤い衣装で紺の髪に碧色の瞳の人!!」
ニコルは納得した様な顔をする。
「あ、それは多分ひがん様ですよ。うちの店一番の売れ子様です。」
「"ひがん"様…?」
変な源氏名だ。
「はい、で、ひがん様がどうかされたんですか?」
「え?あ、えと、さっきそこの窓にそんな方がちらっと見えて…!」
「わ、そうなんですか!良いなぁ、あまりお顔をお出しにならない方なんで見かけたならラッキーですよ!僕もあまり見たことないし。」
ニコルがいきなりぱっと顔を明るくして言う。どうやら凄い人みたいだ。
確かにものすごい綺麗だったし、白い肌してたし。かすかにしか見れなかったけれど、それでもあんなにドキッとしちゃったんだからきっと眼前にいたらもう目もあわせられないかもな。
「へぇ〜、じゃあ僕今日なんか良いことあるかも。」
笑ってキラは次の作業に取りかかった。





外で自分の事を話題にして騒いでいるさっきの子。
良いことあるかも、なんて言っているのを耳元にある窓からもれ聞こえて自然に口元があがる。そんな神じゃあるまいし馬鹿な事を。でもその発想がなかなか可愛い。

"ひがん"と呼ばれるその少年は壁によりかかった背を少しずらした。昨晩は無理しすぎたせいか、体がだるくてだるくて仕方ない。
「ひがん様、湯浴みの時間ですが、お体大丈夫でありますか?」
いつもの世話係の少年が部屋を片付けながら聞いてくる。
「あぁ…うん、大丈夫……」
なんともやる気のない返事をしたと自分で思った。実際やる気が全然ないから仕方ない。
そして外からまだ聞こえてくる二つ声に少し耳を傾ける。その声はまだ何にも汚れてない、澄んだ声。
「…ねぇ、シン。」
かったるそうに首を回して赤い袖が巻き付いた腕を世話係の少年にむける。シンと呼ばれた少年は無言の承知でその手をとり、うまく立ち上がれないひがんを立ち上がらせた。
「…栗色の髪で紫の瞳の子、探してきて…」
シンによりかかったままひがんはそう言った。





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