SHORT NOVEL
□L'isle Joyeuse
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「うーん、キース=ジャレットにハービー=ハンゴク。ちょっとぬるいけどなかなか様になってるね。」
シンの心が以心伝心した訳ではないだろうが、キラもボルドーグラスを弄び率直に曲の感想を述べている。
が、その内容はシンとは真逆だ。
「は?そうですか?俺にはジャズ自体ここに合わない気がするんですが。」
キース=ジャレットなんてまんまアメリカじゃないか。
「あのねシン君、今の時代世の中なんて狭いんだよ?何そんなぬるい事言ってんの、だいたい国際的に活動しなきゃいけない君が何そんな差別的な用語言ってんの。だっからこないだの中国企業との取引だって渋々こっちが承諾しなくちゃなんなくなっちゃったんじゃない。」
「………。」
こいつは絶対中年オヤジになったら愛娘に永遠とうんちくやら自分の一つ話を聞かせるタイプだとシンは心で堅く確信した。
演奏が終わった。
「あ、やっと今日のショーの花形が登場だね。」
シン、コニャックとアルマニャックどっちが良い?と聞いたついでにキラはそう言った。
「花形?またジャズですか?」
それだとせっかくの食後酒が台無しなのだが。
「さぁねぇ〜、それはお楽しみって事で。で、どっち。」
「ぁ〜〜…じゃあコニャックで。」
ちくしょ―、こいつはぐらしやがったな。
ウェーターに頼むキラを睨みながらシンはそう心中で呟いた。まぁいい、今日は全て社長であるキラのおごりだ、この際気が晴れるまで飲んでやる。
あぁでも酔いつぶれたらその分このバカ社長からツケがまわってきそそうだ。
ぶるぶると首をふるシンをキラは受け取ったコニャックを注ぎながらにこやかに笑っていた。
ふいに、色とりどりにあてられていたステージの照明が淡い水色に統一される。
シンは促されるまま渋々グラスを受け取り、口に含んだ。
慎しまやかな拍手と共にステージに現れた一人の長身の女性。何故か一気に雰囲気が変わり、周りの人々もいったんナイフとフォークをおいてステージに視線をむける。
正面におかれた黒いピアノと水色のライトに白いビロードのドレスは良く栄えていた。
彼女は客に一礼し、ピアノに向かって弾き始める。
次に鳴り始めたクラシックにシンはほっと胸をなでおろした。
良かった。まだジャズよりおちつく。
「クロード=アシル=ドビュッシー、"喜びの島"」
ふいにキラが口を開く。
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