SHORT NOVEL
□ゼロ
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細められた紫の瞳に戦慄を覚え、イザークはまた息をゴクリとのんだ。
しかし、それはまだまだ序の内。
彼は白い長い指で戯れていたグラスをコトリと机上において立ち上がった。
筈だった。
「……………──!!!!!」
次の瞬間に彼の顔は、既に己の目の前。
今まで10メートル程はあった彼との距離は、今やほんの10センチ程。
イザークは論理的にありえない、瞬間移動という行為をした彼を畏怖の眼差しで凝視する。
「そんなにコワがらないでよ。せっかくのキレイな顔が台無しだ。」
クスクスと口元に手をあてて笑っている、彼。
その彼の透き通る様な白磁の顔を、イザークは真剣に見据えた。
その右目は先程細められた、紫紺。
そして左目はどす黒い色をした、翡翠。
未だ笑っている異様な容姿の彼に、イザークは唸るように口を開いた。
「…わざわざ俺を呼び出して、いったい何の用だ───アスラン。」
目の前で元とは別人のような、ぞっとするくらい美しく、楽しく笑う彼───アスランを、イザークは常人なら絶対ひるむであろう鋭い眼で睨みつけた。
しかし、アスランはその視線を簡単に流し去る。
「いや別に?ただ、最近のプラントはどうなってるだろうと思って。俺はずっとここにいたから全然わからないんだ。───キラは元気か?」
「ッ───ぬかせ!!」
イザークは飄々と問うその姿に怒号をあげ、アスランの黒いシャツの襟元を締めあげようと手を挙げ、そこを掴もうとする。
が、もうそこにアスランはいない。
「鈍くなったなイザーク。前の大戦が終わって気でもゆるんでいたのか?──あぁ、そうか、キラが死んだのもアイツが油断していたからか?」
再度声がしたのは左横。
はっと振り向くと、壁に背を預けて悠然とこちらを見やるアスラン。
「貴様ァ…!!」
「教えてよイザーク、キラはどうやって死んだんだ?」
その問いかけはとても楽しそうに、嬉しそうに。
あぁ、とイザークはそこで合点がいった。
「────キラ・ヤマトを殺したのは貴様だな、アスラン。」
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